【046】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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046―タタカイ

マドハンとの話し合いが終わり、時間は四時五十分を回る。

僕らが議論をしている間に、マドハンには地下通路を探してもらう。

このゲームの終着点が絶望であれど、僕のやることは変わらない。

過去は変えることはできないが、無くすこともできない。僕はこのゲームに勝つ。そして後悔しよう。その先が空虚でもそれが僕の出した答えなのだから。

目の前の重厚感のある茶褐色の両開きを引く。いつもと同様に視線を浴びることになるのだが、

「ゲームマスター、犠牲者がいないのはどういうことで?」

フセインは黒い外套に向かって、その素直な疑問を口にする。

この中にはフセインのような今日ゲームが終わることを望んでいた人間が存在する。

逆にまだゲームが終わっていないことを祈ってここに来た人間は、僕の登場をどう考えているのか。

僕の登場でマイアが宇宙人であるという事実は人間の中で解消できない疑問となった。

昨日と同様、僕は怪しまれる位置に来る。それを狙った作戦ではあるのだが。

「私は起きている間は暴力以外、何をしてもいいと言った」

黒い外套はこのゲームが始まる際に明確にしたルールを口にする。黒い外套は意図的に解釈を分断させるような言い方をした。

「それは宇宙人は襲撃しないこともできるってことなのか?」

昨日の様子とは打って変わった積極的な態度でハリムは黒い外套に質す。

「どうだろうな? 我々と同様に軽い洗脳程度なら、かき消せる人間もいるかも知れないぞ?」

明確な情報が中立を崩してしまうと判断したのだろう。黒い外套は恐らく僕が昨日の夜何をしたのかを知っているのにも関わらず、そのことを口に出そうとはしない。

ただ黒い外套の出した情報は限りなく僕を白くする。

僕が宇宙人と仮定して、残り宇宙人が二人いるとする。僕がここで誰も襲撃しないという選択は、宇宙人の確定勝ちを見逃すということ。
僕が人間を襲撃すれば、人間と宇宙人の数が同数となるからだ。だから宇宙人が二人いるという状況で誰も襲撃しないという選択はない。

今この場にいる宇宙人は一人。

そして僕が宇宙人であるならここでの襲撃という選択は大きく意味を持つ。しかしだからといって僕が人間ではないと考える人間もいる。

考えられるその可能性は二つ。

アンジョーが宇宙人であった場合。クレトンはブレンドンが宇宙人でないことを証明した。それは人間サイドの共通理解だ。

アンジョーが宇宙人であった場合、いや誰が宇宙人だとしても、僕がここで襲撃しないという選択はほとんど意味を成さない。

だから上記の理由で僕が限りなく人間に見えてしまう。

しかし今まで狡猾だと思われてきた宇宙人を皆はどう見るのか。つまりここで襲撃しないという選択は僕を限りなく人間に見せるための宇宙人の策略だとも捉えることができてしまう。

深読みもこの議論では容易に発生してしまう。

もう一つの可能性は、僕が同じ宇宙人であるマイアを切り捨てたという可能性。これも襲撃しないという選択は大きなメリットとなる。理由は先ほどと同様。どう捉えるかは人間サイド次第だ。

「現在時刻は五時。それでは議論を開始する」

四度目の議論が始まる。

「あの、みなさんはこの中に今何人宇宙人がいると思っていますか?」

ミラは議論の場にいる皆に尋ねる。いい質問だ。

これではっきりと皆の頭にこの中に宇宙人が一人しかいないという共通事項が生まれる。

うっかりとボロを出してくれれば良いが、奴は手強い。僕を生かしてしまった時点で、当然こういう展開になることを読んでいる。

「一人だと思う」

ハリムがそう答える。

「同じくそう思いますね。今日襲撃がなかったのは意外でしたが、こうして議論が開始していることは素直に喜ぶべきことなのでしょう」

ガレンもハリムの意見に同調する。

「シャディ、襲撃がないのはどういう意味だ?」

フセインは焦っている。
口調も二日前と比べて随分とまともになっている。

フセインは宇宙人サイドが勝つために尽力してきた人間だ。彼にとって襲撃がないことはそれだけ不審に映る。昨日の出来事を饒舌に語っても何の意味もないだろう。
その手はフセインが既に使って、見事に村を混乱に陥れ、クレトンを追放させた。

僕が事実を語っても、二日前のフセインのように見られかねない。

「さぁ?」

僕は白を切る。今はまだ明かせない。

「仮に言葉通り彼が宇宙人だとしたら、襲撃をしないという選択は十分あり得るものだと思いますよ。先ほどの宇宙人が一人だと言った理由にも絡んでくるのですが、宇宙人の数が残り彼一人だった場合、絶大な信頼を得ることができますからね。じゃあシャディさんが宇宙人でない場合はどうでしょう?」

ガレンは僕の考えていた可能性を指摘する。そして僕が人間である可能性にも言及する。

「シャディさんが人間であるならば、彼が追放に誘導したマイアさんは宇宙人だったことになるのはわかりますね?」

「マイアさんもシャディさんも人間だった場合は、宇宙人は誰でもいいから襲撃すれば勝つからですか?」

ガレンの言葉にミラが答える。

「そうです。だから仮にシャディが人間なら、マイアは宇宙人だったということになります。でも可笑しくはないですか? 例えば私が宇宙人だとしましょう。この場合、真っ先に私はシャディを襲撃します。シャディ襲撃がこの場合の最善手ですから。そうでなかったとしても必ず誰かは襲撃しないといけません。はっきり言いましょう。襲撃しないという選択を取って、得をするのはシャディだけです」

皆の視線が僕に集まる。ガレンの意見は全くもって正しい。

完璧な回答だ。客観的で議論の展開をよく追えている。

「ガレンさん、マイアもシャディも両方とも宇宙人の可能性はありますか?」

ハリムはガレンにそう尋ねる。二つの可能性として上げたものではあるものの、この可能性を追える人間はまずいない。ハリムがこの発言をした意図はわからない。もしかしたら僕の知らない情報を持っているのかもしれない。

「あり得ないですね」

ガレンは断定する。

「相方を追放するという強引な方法を使って、自身を人間に思わせる作戦自体は有効なものです。ですがそうだった場合、襲撃しないという選択に説明がつきません。マイアさんかシャディさんの片方が生き残って、フセインさん以外の誰かを襲撃すれば、次の日は二対二のランダムで争うことになります。それにフセインさん自体の判別が未だ曖昧な状態。こちらも襲撃しないというメリットは皆無です。だから両方とも宇宙人ということはないです」

ガレンの意見に皆は納得したようだ。

「襲撃しないという選択が示しているのはシャディが宇宙人であるという事実。皆さんもこれでわかったでしょう?」

議論のコントロールが巧みで、アドリブ力に長けている。読みも鋭く、高い洞察力に、展開をすぐさま把握できるほど頭の回転が早い。そしてなおかつ多弁で、雄弁だ。襲撃できなかったという本来なら人間側の利益でしかない失敗が奴の手にかかれば、華麗に状況を引っ繰り返すほどの妙手になる。

本当に敵に回したくなかった。

かつて村の皆にウェルと呼ばれた男。

ガレンは――宇宙人だ。

 

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