【043】汝は宇宙なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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043―アンテン

1930年10月15日 雨
メイドの仕事がだいぶ板に付いてきた。最初の頃は注意ばっかされていたけど、最近じゃ怒られることもあまりなく、むしろハウスキーパーからは褒めてもらえたりする。ハウスキーパーというのは、メイドの中で一番偉いメイド長で、少し性格がよろしくない。最近は本当にましになったけど。私の仕事は特定の場所を持たず、基本何でもやる。何人かいるハウスメイドの内の一人だ。そのおかげか掃除も、洗濯も、炊事も今じゃ仕事を通り越して趣味になりつつある。何でもないことをちまちまやっていくのが楽しいのだ。もしかしたら私にはメイドとしての才能があったのかもしれない。鉱山の経営の方も順調らしく、これも全部ビリーさんとウェルさんとマイアさんのおかげだ。ちなみに彼らはお屋敷の客人として丁重におもてなしされている。仕事をほったらかしにして、たまにマイアさんのところに行ったりする。そのせいでよく怒られているわけだけど。

1931年2月1日 曇り
今日、マイアさんがやっと月に一回来るあの日について教えてくれた。こう言ったら、勘違いされそうだけど、その日はビリーさんにもウェルさんにもやってくる。その日はみんなから絶対部屋に入るなと言われるし、部屋の中からはうめき声も聞こえたりする。私が大丈夫ですかと言っても、邪険にされることも多い。その日だけは優しいみんなの性格がガラッと変わってしまう。だけど今日、また少しマイアさんとの距離が近づいた。彼女は少しミステリアスなところがあって、自分の内心を悟られないようにしていたけれど、やっと心を許してくれた。彼女は私に話してくれた。簡単に言うと、その日というのは細胞が生まれ変わる日らしい。彼らの種族は厳しい環境に育てられてきたせいか、環境に早く順応するように進化してきたけど、そのために払う代償というのが大きい。細胞が生まれ変わるとき、皮膚が焼けつくような激痛に襲われ、破壊衝動、殺人衝動に襲われる。今は鎮痛剤と抑制薬で何とか持ちこたえている状態で、その薬はもう少しで切れてしまうそうだ。だから彼らは薬を取りにいくために、村の報告も兼ねて中継地点に戻るらしい。私はマイアさんの話を聞いて、驚いたというより、悲しくなってしまった。村のことを思ってくれた彼女たちを理解してやれなかったという悲しみと、もう会えなくなってしまうという悲しみ。感情的になってしまった私をマイアさんはそっと抱きしめてくれた。大丈夫、すぐに帰ってくるわ、と優しい声で囁いてくれた。私は自分が思っている以上に、彼女たちが大好きだった。

1931年4月4日 晴れ
宇宙船の修理が終わって、今日彼女たちは一時的だけど、薬と村の報告のために宇宙へと帰ってしまった。どのくらいかかるかわからないけれど、長くて一年ほどで帰ることができると言ってくれた。村のみんなも彼女たちの出発を盛大に祝っていた。宇宙船が空へと飛び立っていく光景は少し寂しさを覚えるものだったけど、テクノロジーの圧はやっぱり凄かった。でもこの別れに一番悲しんでいるのは私じゃなくてダンだったりする。ダンは暇さえあれば、ずっとウェルさんに構っていて、ウェルさんも見た目以上に不愛想なところはあるけど、なんとなくダンの世話を焼くのを楽しんでいた。少しの間私もマイアさんとお別れになるけどもう寂しくはない。次会うときはメイドとしても、人間としても成長した姿を彼女に見せてあげたい。とびっきりの笑顔で迎えてあげよう。

1932年5月1日 雨
あの日からだいたい一年ほどが経った。彼女たちは帰って来ない。今日は久しぶりに私とジェイデンとダンで集まった。彼女たちについてではなくて、村のみんなについて話し合った。なんとなく私たちは村のみんなが少しずつおかしくなっていることに気付いた。理由はわかっている。しあわせの石のせいだ。みんな彼女たちと一緒に決めたルールを無視し始めている。ダンがそれを村の大人に言ったら、殴られて帰って来た。ジェイデンもバートさんの跡を継ぐために、バートさん達と一緒になって、鉱山の経営をしていたけど、最近じゃあもうバートさんの独裁が始まっているらしい。強引な経営もあってか、少しずつ業績が落ちている。私達にできることはない。彼女たちが帰ってくるのを待つしかない。

1932年10月22日 曇り
やっぱりみんなおかしい。優しかったライト家のみんなが変わってしまった。バートさんは村のために貯蓄してきた財産を切り崩して、私利私欲のために使い始めた。色んなアンティークやオブジェを買い漁って、肖像画なんかも作り始めた。昔は村のためを第一に考えてくれる人だったのに。サリーさんは何だか気味の悪いインテリアを集め始めた。個人の趣味について口を出すのはメイド失格だけど、あの絵とかは正直見てられなかった。だから私はサリーさんに濁して伝えた。何の意味もなかったけど。ジェイデンも他の使用人のみんなも石を手放すように、必死で説得している。どうしてこんなことになっちゃったの? どうして彼女は帰って来ないの?

1933年3月7日 雨
今日はもう何も書く気が起きない。こんな惨めで、汚された私をジェイデンとダンは私を慰めてくれた。ダンはバートを殺すって言っていたけど、別に私は復讐を望んでるわけじゃない。バートさんには何だかんだ言って、この屋敷に私を置いてくれた恩もある。ただ私は悲しい。悲しいだけ。

1933年3月20日 晴れ
あれからバートとは関係をもっていない。危ないときもあったけど、その時はジェイデンが助けてくれた。バートから貰った三階の空き部屋は使っていない。今更、私があの部屋を使い始めても、サリーさんはどうせ何も言わないだろうし、誰も私を咎めないと思う。今は自分の部屋が心地いい。あの部屋でマイアさんと色んなお話をした記憶がまざまざと思い出される。もう少しであの日から二年ほど経つ。早く帰ってきて欲しい。

1933年5月16日 曇り
いつもと同じ仕事をこなし、休憩を取っていた時のことだった。窓から見えたその光を放つ円盤に私は文字通り言葉を失くした。驚きもあったけど、それ以上に、私は心を躍らせていた。私はすぐに屋敷を出て、広場まで迎えに行った。ダンも、ジェイデンもすぐに駆け付けて、彼女たちの帰還を喜んだ。だけど喜んでいたのは私達だけだった。宇宙人のみんなも苦虫を踏み潰したような顔をして、村の大人たちに至っては彼女たちに罵倒を浴びせていた。私たちは夜が更けていたこともあって、ダンの家で集まって、今は私たちと宇宙人のみんなでそこに集まって寝泊まりすることになった。彼女たちはとても焦っていたように見えた。何があったのかは明日話してくれる。今日はゆっくり休もう。

1933年5月17日 曇り
今日彼女たちと話し合った。まず今村で起きていることを彼女たちに伝えた。欲望に支配された大人達の異常とも取れる言動の数々を伝えた。私達が懸念していた通り、しあわせの石の影響で間違いなかった。ビリーさんはとても悔しがっていた。何度も何度も私たちに謝ってくれた。ウェルさんもマイアさんも私達をずっと気づかってくれた。彼女たちは人間なんかよりずっと優しい。そして彼女たちはこの二年間何があったのか、これから私達が巻きこまれてしまうことについて話してくれた。人間社会に様々な組織が存在するように、彼女らの故郷にも当然組織は存在する。そして同じ直轄の組織でも対立がある。他の星の気候、地形、住人、資源の有無を確認するための調査を取り扱う部門と軍事の中でも特に兵器開発を目的とする部門。トップを同じくするけど、前者には彼女たちのような穏健派が集まって、後者には武力での解決を辞さない強硬派が集まっていた。その星の国民は星の統一を成し遂げた軍部に絶大な信頼を寄せていた。それは星の統一を命じたトップの連中も同様だった。彼女らはこの村を旅立った後、中継地点で、強硬派が暴走していることを聞いた。そしてある星が新兵器のテストのために利用されてしまうことも知った。穏健派、特にその星に深い思い入れのあった彼女達は大反対した。だから彼女達は幽閉された。だけど幽閉された後も、彼女たちの思いは変らなかった。地下牢から逃げだした彼女たちは必死に地球を目指した。この事実を伝えるために。

 

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