【040】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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040―ジサツ

夫人の部屋から新たに見つかった鍵。

そして未探索の部屋は残り三。

先ほどわかったことなのだが、しあわせの石の確率操作にはある程度、当人の意思が関わってくる。四分の一で開く扉を悉く外してしまったのは、僕が石の能力自体に意識を向けていなかったからだろう。

僕は息子の部屋であろう扉の前に立つ。
だからこうしてこの石に向かって、念じてやれば、

「やるじゃん、にーちゃん」

鍵穴に鍵が滞りなく差し込まれ、扉が開く。

「マドハンの言っていた気持ち悪い感覚っていうのはまだわからないな」

「多分まだ浅いからだと思う。強力な薬に副作用があるのと同じで、この石にもそういうのがあると思うんだ」

僕が昨日の議論中に感じた狂気が、この石の副作用だとしたら。

精神を蝕んでいくしあわせ。

まるで薬物みたいだ。

欲望に溺れた人間の末路。村の過去。

「こっちの部屋はさっきより全然マシだな」

マドハンが部屋に入って早々に感想を漏らす。

「なぁ、にーちゃん。おれもプロファイルしていいか?」

プロファイルとは簡単に言えば情報を収集すること。そしてその集まった情報を分析し、抽象化すると、例えば犯罪捜査の場合、犯人の性格や行動原理を推定することができる。

「どうした? 急に」

「いや、おれもできないかなと思って。にーちゃんもおれも結局は同じ人間な訳だし」

これは誉め言葉として受け取っておくべきなのだろうか。

鋭い推理力や思考力は、まず前提として豊富な知識が必要だ。
その上で論理的思考と見えないものを見るための想像力がいる。
そして最後には経験が物を言う。

自分が優れているとは思わないが、友人関係が皆無な僕は読書量や考えることが人一倍多かった。こう言ったスキルは自然と身に付いていくものだろう。

「到着点はこの村の過去に関する重要な証拠と次の部屋の鍵を見つけること。できるね?」

「任せろ!」

僕とマドハンは各々、部屋を物色し始める。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「それじゃあ、聞かせてもらおうか」

十分ほどの探索を終え、僕は自信満々そうな笑みを浮かべるマドハンに、探索の成果を尋ねる。

「おーけー」

マドハンは握りこぶしを口元に運び、コホンと咳払いの音を上げる。

「まずこのライティングデスクを見て欲しい。机の上も引き出しの中も綺麗に整頓されている。集合写真からこの部屋主の年齢は十六、十七くらいだろうけど、おれは年の割にずいぶん成熟してるんだなと思った」

「それで?」

「家具類は別として、この部屋主の持ち物はどれもお金がかかっていない。例えば、文房具類はどれも町で買えるような平凡な物だった。万年筆が一番わかりやすいと思う」

「ほう?」

「堅実で、誠実で、真面目で、良い金持ちだ。たぶん親がアレだったから、その分子供は真面目に育ったんだね。どう?」

マドハンはかなり筋が良い。着眼点も悪くない。

父親バートの傲慢で図太い性格や母親のあの狂気を目の当たりにしていたこの部屋の持ち主は、見事にそれを反面教師として、堅実に成長していった。

人の振り見て我が振り直せ。

まさにそんな言葉がそのまま当てはまるような部屋主。

僕は頷く。

それを確認したマドハンは止まることなく、次の推理を口にする。

「この部屋主の日記とかがあればわかりやすいんだけど、それはどこにあるか。本棚は専門書ばっかで堅すぎる。真面目すぎるんだよ。だから何となく表面を取り繕ってるように思う。だからこうして専門書を一つ取ってみると、後ろにある本は娯楽本ばっかだ」

本当に初めてにしては良い線を行っている。
経験で補って来た僕にはないセンスだ。

「こういう人間は自分の過去を知られるのが一番嫌だ。だから本人が一番相応しいと思っているところに自分を隠す」

マドハンはそう言って、ベッドの許まで歩き、膝を付いてベッドの下に手を伸ばす。

「見たまえ、シャディ君」

ベッドの下から出てきた物を自慢げに見せるのだが、

「残念だったな、マドハン。それが部屋主の過去か?」

僕は笑みを零さぬよう、必死に取り繕いながらマドハンを煽る。

「げッ!」

ポルノ雑誌に、ポルノ漫画。それにヘイズ・コード以前の映画ポスターもある。ひょっとして物凄くレアなのではないだろうか。

「流石だな、マドハン。これで君も探偵だ」

「やめてくれ」

マドハンはベッドの下に、慌ただしく戻そうとする。

が、コンッという音が部屋に響く。

マドハンの足元には、ボロボロのB5サイズの紙が落ちていた。

遠目だが、数行分の文字と紙の角に鍵が張り付けられているのが見えた。

僕はその紙を拾い、書かれていた文字を読み上げる。

皆イカレてしまった。
目先の欲望に支配されて、大切なものが何も見えていない。
もうこの村にまともな人間はもうほとんどいない。
頭がおかしいのはあいつらじゃなくて、僕ら人間だ。
宇宙人を殺すなんてまともじゃない。
空には大きな飛行物体が見える。
僕らはもうお終いだ。
ならいっそ自分の手で死ぬ方がずっと良い。
本当に申し訳ない。
1933年5月30日
ジェイデン・ライト

ジェイデン・ライトの最期の言葉。

ライトはこの屋敷主の姓だ。

僕はこの遺書の角に貼ってあった鍵を取る。真実を知る者は元からあったこの紙に鍵を貼り付けて隠していた。

僕らにこれを見せるための細工。

メッセージだ。

「次の部屋に行こう」

夫人の部屋は富と狂気。

この部屋は自殺と絶望。

僕らはストーリーを見せられている。なら次の部屋は……。

僕らは部屋を出る。

これから目にするものは絶望の果てだ。

僕は大きく息を吸い込み、次の部屋に入る覚悟を決める。

 

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