【038】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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038―オモイ

親愛なるハリムへ

君がこの手紙を読んでいるのなら、君の許に無事届いたようで良かった。まず薬のことを君に話すことができなくて申し訳ない。リーナが襲撃されて、君の落胆は手に取るようにわかった。大切な人を失う痛み。本当に辛いと思う。だから私は薬のことで君に負担をかけたくなかったのだ。T-001aは二本ある。一本はクレトンに結果は人間だった。そして二本目はミラに使用した。結果はわからない。ただシャディだけがその結果を知っている。君にシャディを信じろとは言わないから、自分の目で彼を判断して欲しい。ただ彼は君のことを信じている。この手紙を渡したのもシャディのはずだ。
私が死ぬ前にこの手紙を書いたのは、君にしか頼めないことがあるからだ。私は以前、彼らと同種族であろう宇宙人の変死体の調査を行ったことがある。T-001aはその時の成果でもある。私たち人間と奴ら宇宙人との違いは見た目からではまずわからないのは知っていることだろう。だが奴らは人間の何百倍もの生存能力を秘めており、この地球という環境に容易に順応していたようだ。人間と奴らの差は細胞単位だが、それでも内部を切り開いてもらって、わかったことがある。奴らの呼吸器官は異常に発達していた。私が頼みたいのは、君にしかできないことだ。法医学を学ぶ君だからできることだ。追放された者が宇宙人かどうかを君は知ることができる。どうか自分に自信を持って、挑戦してみて欲しい。
この戦いを最後まで見届けることは無理なようだ。私から君に教えてやれることはもうない。ただ今まで色んな逆境に立ち向かって、努力して来た君だ。いつも通り、リラックスしていればいい。希望を君たちに託す。
ブレンドン・ランバート

午前七時。

一日の始まりを告げる鳥たちの鳴き声と共に俺は目を覚ました。

その声はクリアに、そして美しく村中に響き渡り、瞼を閉じれば、その鮮麗で、極彩色の姿が脳裏に浮かぶ。

目覚めの良い朝。昨日までの自分ならこうも思わなかっただろう。

今日の人数は四人。

マイアが宇宙人でなく、アンジョーもクレトンも宇宙人でないなら、襲撃で宇宙人と人間の数が同数となって、自分たち人間の負けが決まる。

マイアが宇宙人であるなら、恐らくシャディが襲撃されて、俺、ミラ、ガレン、フセインの四人が残る。

シャディは当然のようにフセインを人間として見ていたが、正直に言うと、自分の中ではフセインが人間か、宇宙人かどうかも微妙だ。

狡猾な宇宙人なら、追放を逃れるための一手だったかもしれないという考えも捨てきれないのだ。宇宙人でなかったとしても、昨日の様子では到底人間に協力してくれるとも思わない。

亡き師の願い。

もしゲームが終わっていないなら、まだこれから自分がやる行為もまだ遅くはない。変わらなければと決意して、今日やるべきことを見つけた。勝利のために、そして希望のためにやらなければいけないことだ。

俺は軽く身だしなみを整える。
必要な物はナイフとタオルと水くらいだろう。タオルは持っているが、ナイフは流石に持ってきてはいない。特殊な薬品を持っていたブレンドンならナイフを持っていそうだが、一番確実なのはキッチンに行くことだ。

俺は部屋を出て、ブレンドンの部屋ではなく、キッチンに向かうことにした。

キッチンからチャプチャプと水が跳ねる音がするのは、ミラが食事の準備をしているからだろう。

ミラの食事を食べたのは、まだ同好会の皆もいた頃だ。ゲームが始まり、有耶無耶になってからは、食べてはいない。
食糧を拝借するためにここに来ることはあっても、彼女の手料理を食べることはできなかった。

彼女はきっと人間だ。

まだゲームが終わらず、シャディが襲撃された場合、俺は彼女が人間であると知っていても、彼女は誰が人間なのかはきっとわからないはずだ。

俺とガレンとフセイン。

一番怪しいのは筆頭でフセイン。

ガレンは初日から人間らしい発言をしていた。情報を落とさないアンジョーが怪しく見えるのはもっともで、しっかりとした発言も残していた。その日以降も冷静で、議論をまとめてくれたりもした。

立場はどっち付かずで、何だか人間らしい感じもする。

少なくともここ二日間、寡黙気味だった自分よりずっと人間らしい。

ミラの票次第で、人間側の運命が決まってしまう。人間サイドは圧倒的に不利だ。彼女にナイフを手に取っている場面を見られたら、怪しまれるなんてものではない。
彼女は俺に背を向けている状態だ。

俺はそっと刃物が仕舞われているであろう引き出しを確認し、刃渡り100mm程度のペティナイフを一本だけ抜き取る。

そして貯水するために用意した、今は満タンのペットボトルを手に取って、静かに立ち去る。

屋敷の外へ出て、朝の新鮮な空気を吸い込む。
この村の空気は本当に澄んでいて、有り体に言って美味しい。夏だけど標高が高いおかげで、不快な感じも一切ない。

この村に初めて来たとき、リーナは物凄く喜んでくれた。

やり直すことができたら、もう一度彼女とこうして同じ空気を吸っていたい。

俺は庭にある花壇へ向かう。
屋敷の花壇ということもあって、一般的な花壇よりずっと広い。今は閑散としているが、昔は色とりどりで、綺麗だったに違いない。

そんな屋敷の庭園に、似つかわしくない物体が一つ、天を仰いでいる。

「……マイアさん」

こういう死体に耐性が付いているせいか、不快感も、吐き気も特に感じない。この村に来る以前から写真越しではあるが見慣れているからだろう。今まではこうやって追放や襲撃で死んでいった仲間の遺骸は全てブレンドンが片付けてくれた。

僕はマイアの冷たい身体を抱え、花壇端にある肥料や建材が置いてある場所へ向かう。

そこには横に長く、ブルーシートがかけられている。ここには今までの戦いの中で死んでいった犠牲者達が眠っている。そしてまた一人増えていく。

この村には水道が通っていない。いや水道はあるのだが、肝心の水がこのゴーストタウンには供給されない。いちいち汲みに行くのも面倒なので、この村に着いてから、近くにある清流で大量の水を貯水してある。

先ほど取って来たペットボトルはその時の物だ。

俺は建材の傍らに置いてあるトタン製のバケツを見つけ、その中に水を移す。

準備はできた。

追放者一人一人の内部を調べあげるのは骨の折れる作業だが、それでも俺はやらなくてはならない。俺はかけられているブルーシートを剥がす。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

追放者は初日からアンジョー、クレトン、マイアだ。三人の解剖を終えて、わかったことがある。

個人差はあるものの、アンジョー、クレトンは俺が大学で学んだ正常な呼吸器官を持っていた。

問題があったのはマイアだ。マイアの肺を確認してその違和感に気付いた。

肺を構成するパーツの数は同じ。その複雑な基本構造も哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属ヒトのそれと一致する。ただ肺を動かすための筋肉、血管、その他諸々が人間のそれとは違う。

弾性、伸縮性、堅さ、表面に張った筋、凹凸。

何とも形容し難いが、ブレンドンの言っていた異常な発達がそこから確認できた。
複雑の心境で目の前にいるマイアの顔を見る。

ゲームはまだ続く。これは喜ぶべきことだ。人間サイドの勝利のために、目の前にいる憎き宇宙人を殺すことができた。

ただ、何となく俺は彼女が宇宙人でないと信じたかった。月数回会う程度の関係性だったが、どうしても彼女が宇宙人だとは思えなかった。

手の筋肉が緩んで、血の付いたナイフが手から離れる。

マイアから視線を逸らすと、期せずして、リーナの姿が目に入ってしまった。

他の死体と違って彼女には傷一つない。彼女の死体はここにいる誰よりも美しい。

一歩一歩、ゆっくりと彼女の許へ歩み寄る。膝を付いて、そっと彼女の頭に手を乗せ、髪先に向かって手を滑らせる。

「頑張るよ、リーナ」

彼女には決して伝わることのない独り言。

俺は立ち上がって、ブルーシートを元に戻す。

彼女の顔を見るのも、これで最後だ。

俺はマイアの傍らに落ちていたナイフを拾い上げ、血をタオルで拭う。

「ここから這い上がってみせる」

 

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