【037】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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037―メザメ

目覚めたのは午前十時頃。

昨夜の逃走劇の疲れが想像以上に僕の身体を蝕んでいたらしい。

昨夜の犠牲者はゼロ。

失ったもの、いや得たものはせいぜい鉛が全身に埋め込まれているように重い身体、これくらいだ。

僕はベッドから起き上がり、新鮮な空気を入れようと窓のハンドルに手を伸ばす。爽やかな風が部屋に流れ、夏特有の蒸し暑さを外へ外へと追い出していく。

この部屋からは、屋敷の庭にある花壇が見える。そしてその傍にあるものは、かさを増したタープ、ブルーシートだ。

毎日二つずつ増えていくその膨らみは想像するに難くないだろう。

一番左からアンジョー、リーナ、クレトン、ブレンドン、そしてマイア。

誰も死体に触れようとしなかったのを見かねて、ブレンドンが一人で始めたことだ。ちなみにブレンドンの遺骸を運んだのは僕だ。

マイアを運んだのは、おそらく今さっきまで、その傍らに立っていたハリムだろう。

ハリムは血が一滴ずつ、ポツポツと地面に垂れていくナイフの刃を持っていたタオルか何かで拭き、それをバッグにしまって、そのまま屋敷へ去って行った。

彼が何をしていたのかは、その地面に作られた赤い染みからではわからない。ただ彼の表情はここから見える限りでも、昨日議論で見た表情とはまるで別人のようだった。青ざめていた顔に血色が戻り、覇気が戻った。

彼も前を向き始めた。

誰もいなくなった庭から目を離し、デスク前の椅子に腰を落ち着かせる。

僕はこの村のことをまだよく知らない。

宇宙人が与えたこのしあわせの石が村に繁栄をもたらしたこと、村が不可解な消滅を遂げることになった原因と追放というゲーム、その三つだけ。かつて友好だったはずの宇宙人と人間。

原因の原因、友好だった関係に亀裂を入れた何か。

僕は奴が昨夜放った言葉の意味を考える。

過去に行われたゲームを、再び今になって始めた黒い外套。

繋がらない。

点と点の間を埋める情報を僕はまだ持っていない。

四、五分間、考え続けているとドアがノックされていることに気付いた。そのノックは少し乱暴だ。

僕に不信感を持つ者は多い。

他の人達がどのように議論までの時間を過ごしているのか明らかではないが、わざわざ好き好んで僕の部屋に入る者を僕は一人しかしらない。

僕はドアを開け、ゆっくりとその少年を部屋に招き入れる。

「やぁ、にーちゃん。早くいれてよ。ばれるか心配だったんだ」

「ごめん、考え事をしていて気付かなかった」

マドハンは僕の部屋に入るや否や、ドアのノックに気付かなかった僕を非難する。

「それで何の用だ? 食糧なら少ししか分けてやれないよ」

議論で突拍子もない言動を取ってしまったので、ミラに今信用されているのかわからない。今食堂に行ったとしても、更に僕への不信感が増すだけだ。手持ちの食糧は軽食程度の栄養機能食品だけだ。

「いや、ご飯はいいよ。昨日たくさん調達したからね」

マドハンには僕らが議論をしている最中、発煙弾を作ってもらっていた。おそらくその時、キッチンから盗ってきた物だ。

「これなんだけど」

そう言ってマドハンは見慣れない鍵を取り出した。

現代使われているような窪みや歯がある鍵ではなく、はっきりとアンティークだとわかる。その真鍮製の鍵は多少錆びついているが、まだ使えそうだ。

「どこにあったんだ?」

僕が部屋の隅々まで探したが見つからず、ステラも見つからないと言った鍵の内の一つ。

「昨日、おれが寝てた場所。朝起きたらベッドから落ちてて、デスクの裏に張り付けられてるのが見えたんだ」

マドハンが昨日寝ていたのはクレトンの部屋。

ここなら奴にも見つからないだろうと思って、選んだ部屋だ。おそらく僕らと違って、マドハンはずっとあの家屋にいたので、奴がマドハンのにおい自体に気付いたとしても、その実体自体はわからないはず。

奴の嗅覚を知った今、クレトンの部屋にマドハンを泊めたのは危険でしかなかったが、生きていて安心した。

それに大きな収穫があった。

「開かずの部屋は全部で四つ。今から探しに行くよ」

「え? おれも」

クレトンの部屋に鍵が隠されていた。隠したのは単純に考えるならクレトンだが、当然そうでない可能性もある。ただ鍵を隠そうという意図があるのはわかる。

僕らから村の何かを隠そうとしている。

だからきっとこれからわかることはこの村の真相だ。

「当たり前だ。この村を知りたくてここに来たんだ。自分の目で真実を確かめるんだよ」

僕らは三階を目指す。

この村の過去を知るために。

 

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