【035】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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035―ドウキ

議論のコントロールは無事上手くいった。

ただ作戦の成功に対する喜びとは裏腹に、彼女の最期の笑顔と一筋の涙が脳裏に焼き付いて、何かを見失っている、そんな気がしてならない。

彼女の相貌を滲ませた涙の露が何を語っていたのか、何を示していたのか、僕は理解できない。

僕らは一体何と戦っているのか。

苦悶と困惑の表情を浮かべ、空を仰ぎ見る。

空は既に、闇に染まっていて、あと一刻ほどで僕らに許された活動時間が過ぎ去り、今日という日を終える。

僕が宇宙人を演じたのは、奴らのヘイトを僕に向けること。

今日の議論で、宇宙人を追放すれば、まだ僕ら人間の明日が来る。だから奴ら、いや奴は宇宙人を演じ相方の宇宙人を追放した僕を襲って、僕が宇宙人でないことを証明する必要がある。

だから僕は自信を持って、今日奴は僕を襲いに来ると言える。

そしてこのマドハンから託されたしあわせの石を使えば、黒い外套が放った洗脳の影響を免れることができる。

黒い外套は言った。

起きている間は暴力に値する行為以外なら何をしても良いと。なら九時を越えようが意識がありさえすれば何の問題もないはずだ。

だが僕は奴らの性質を知らない。

僕は夜時間、素直に、無気力に自室にいたが、全員がそうしているわけではないだろう。もしかしたら皆、様々な場所に隠れ、襲撃を免れようとしたのかもしれない。宇
宙人は嗅覚が優れているのか、聴覚が優れているのか。人間には考えられないような身体能力があるのか、それとも第六感のようなものがあるのか。

ここからは未知数。

いくつか脳内で奴から逃げ回るプランを用意したが、通用するのかもわからない。今は屋敷の中では不利なのではないかという判断で、屋敷外、村中央広場のベンチで待機している。

月明かりだけが唯一の安寧である暗闇。

逃げ道は無数にあるが、奴の能力がわからない分、駆け引きも多い。
宇宙人の擬態という能力にどこまで限界があるのかそこが鍵になりそうだ。

僕の予想では、五感プラス一感の延長はあっても、足が速くなるとか、パンチ力が上がると言った筋肉構造から来る能力まではないと思っている。
奴が人間の見た目をしているなら、その筋肉に見た目以上の効果はないはず。

屋敷の中は混沌でしどろもどろとしているが、いつ見ても屋敷の外は、この空は平和で、穏やかだ。そんな空を見ていると、不思議と落ち着いていられる。心の準備はできた。

僕と宇宙人の生死を賭けた鬼ごっこが後十分ほどで始まる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

大丈夫、意識はあるようだ。

現在時刻は九時。

無事このしあわせの石が、時間と共に強制的に消えていってしまう意識を食い止めてくれた。

屋敷からここに来るまで約三分。
奴が僕の部屋を探しに行くのなら、もう三分ほど見積もっても良いだろう。

僕は広場のベンチで横たわり、じっと身を潜める。
手にはカメラ、身に着けているパーカーのポケットには簡易的な発煙弾が三つ。

僕がマドハンに作り方を教え、材料を皆に見つからないようこの昼間に集めてもらい、議論の最中に作ってもらったものだ。

火薬と砂糖があれば、簡易的な物だが作ることができる。

後者はキッチンに、前者はまず単体で見かけることはないので、同じ硝酸カリウム製の肥料で代用した。肥料は花壇横から頂戴してきた物だ。

両方、目をくらませるための一時凌ぎに過ぎないがないよりはましだ。

それにしても本当に静かだ。聞こえてくるは、夏の夜を彩る虫や小動物の鳴き声に、軟風が森の木々を撫でる音。今のところ足音は聞こえてこない。

しかし奴は確実に近づいている。

双眸に映る満天の星空、暗闇を照らす天満月。

僕はそっと瞼を閉じる。

視界をシャットアウトして、全神経を耳に集中させる。屋敷のドアがギーッと軋む音。やはり屋敷の内部を探索していないところをみると、何らかの力があるようだ。

即決で僕の居場所を特定できる何か。

足音は、まだ遠い。

初めは聞こえすらしなかった足音だが、少しずつ少しずつ大きくなっていく。

僕の許へ着実に、着実に。迫っている。

僕が仰向けになって身を潜めているベンチは広場南西に、奴は既に北の広場入口付近まで迫っている。舗装された道から広場の砂を踏む音に変わる。その音はどこか弾んでおり、軽快としている。

僕の心臓の鼓動が早くなる。

血液を送る波のリズムが、迫り来る奴の足音のボリュームと同期して、相乗する。

――十五。十四。十三。

奴の陽気な鼻歌。

――十二。十一。十。

軽快なステップに、サウンド。鳴り止むことのない動悸。

――九。八。七。

奴の正体にはもう見当がついている。奴はマイアとは本質的に違う何か。そして奴も僕がその正体を知っているということに気付いている。

――六。五。四。

奴も僕も引き返せないところまで来た。奴が僕を殺しに来る、そして僕は奴から逃げる。

――三。

奴が僕を殺しに来るのが早いのか。

――二。

それとも僕が奴から逃げ切るのが早いのか。

――一。

約三十分に及ぶこの鬼ごっこで僕らの勝敗が決まる。

――零。

「見ィつけた」

 

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