

034―シツイ
子供の頃は友達が少なかった。
運動神経も悪く、不器用で、性格も暗かった。
だけど、そんな俺を支えてくれた幼馴染はいた。彼女は俺と違って、話の輪に簡単に入り込み、新しい環境にもすぐに馴染んでいけた。
だから友達が多くて、俺を陰とするなら明るい陽のような彼女にいつも憧れを持っていた。
父親の仕事の関係で宇宙が好きになった俺は、その影響なのかはわからないが、学校の成績だけは良かった。だけど俺と幼馴染の彼女の距離は学年が上がっていく度に、離れていった。
勉強しか取り柄のない俺と明るく友達の多い彼女。
彼女が髪を染めるようになった時は驚いたけど、それでもあきらめきれなかった俺は彼女に告白をした。
結果は最悪だった。
彼女は俺と昔、仲が良かったことをまるで消し去りたい過去のように語った。彼女には既に上級生の彼氏がいて、全くもって俺が入り込む余地はなかった。
それでも、俺の恋心は収まらなかった。
幼き頃の眩しい思い出が彼女を諦めさせなかった。
俺は悔しかった。
だから高校入学を機に変わろうと決意をした。毎日、走り込んで足りない運動神経を補って、積極的に色んな人達に話しかけにいった。元々得意だった勉強に更に磨きをかけて、高校を卒業する頃には、誰もが俺を完璧な人間だと言った。
宇宙が好きだったのは変らなかったけど、何より彼女に驚いてもらおうと思って、大学は医学部に入ることにした。
そして俺は三年ぶりに彼女に二度目の告白をした。
彼女はとても喜んでくれた。
俺の努力が実って花になった。
大学の友達は、何も知らない彼女のことを嫌っているようだけど、俺はそんな日常にとても満足していた。彼女との甘い生活も、ブレンドンという少し頭の可笑しい元大学教授が率いる、宇宙の真理解明を目的とした同好会もすごく楽しかった。
俺は満足していたんだ。こんな日常に。
八月上旬になって、ブレンドンの提案である村に行くことになった。今までも色んな活動をして来たが、この調査は今までよりもずっと大規模だった。
リーダーのブレンドンに、会社員のアンジョー、小説家のマイア、俺と彼女のリーナ。そしてジェイコブの代わりにシャディという大学生も来ることになった。
現地に着いて、NASA職員のガレン、クレトンに、屋敷の管理をしていたというステラと孫娘ミラに、独自の情報を手にやって来たというフセインに会った。
だけど順風満帆だった俺達の調査に突如、亀裂が入った。
ステラが消えた後、黒い外套を着た謎の男によって、俺達は追放という名のゲームを強制された。
俺達の中にいる二人の宇宙人を昼に行う議論で追放するというものだ。俺達が昼に一人ずつ追放していく代わりに、宇宙人は夜に一人ずつ襲撃していく。
そんなゲームのせいで俺達は絶望的な目にあわされてしまう。
俺達がこの村に来た時から既に絶望は始まっていた。
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俺は処刑が終わり、部屋に戻った。
議論じゃ何もできなかった。
リーナがあいつらに殺されて、俺は何もかも失った。もう決して俺の好きだった彼女の明るい笑顔を見ることができない。
無気力感。
彼女が死んでしまったという事実が重くのしかかる。
そしてアンジョーも死んで、ブレンドンも死んで、マイアも死んだ。
なんだってこんな目に会うんだ。全部あいつらのせいか。こんな村から逃げようと思っても、黒い外套の男のせいで逃げられはしない。
もう最悪だ。死んだっていい。
今日の議論で異彩を放っていたシャディという青年を俺は不意に思い出した。彼と初めて会話をした時、まるで俺とは対照的な人間だと感じた。
村の調査を続けていく内によりそう感じた。
俺は自分のことを完璧だと思わない。みんなはそう言うけれど、今いる大学に入るのに物凄く苦労したし、努力をして来たという自覚もある。
それでも俺を努力の天才と言うのなら、シャディはきっと本物の、真の天才だ。
彼は一人でにこの村の調査を進め、一つの可能性を持ち出した。あの未知に対する執念と知識量、そして推理力。
俺は今日の投票でシャディに票を入れた。
マイアのことはよく知っていた。
彼女は少し掴めないところはあるけど、至って普通の人間だと思う。彼女はただ自分の内心を悟られたくないだけなのだ。あんな非道なことをするとは到底思えない。
そしてそれ以上に、
――シャディが怖かった。
彼ならひょうひょうと何でもこなしてしまいそうで、あの狂気も本物に見えてしまった。
午後九時まであと二時間。今日こそは死ねるのだろうか。もうこの二日間ずっと死ぬことを望んでいる。
リーナのいない日常に果たして意味などあるのか。
それともまた意味もなくあいつらに生かされるのか。
仰向けになって天井を見つめる。
そう言えばシャディから手紙をもらっていた。彼からの手紙は怖くて、素直に受け取ることができなかったが、確かブレンドンからだと言っていた。
あの後結局読むことはなかったが、こう意識すると気になってしまう。
俺はベッドから起き上がり、机の上に置いてあるその手紙を手に取った。
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