【029】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】

今日の襲撃は間違いなくブレンドンだ。

昨日のフセインの豹変で、村の皆も、宇宙人からもブレンドンが本当のことを言っていたと考えるのは難くない。

限りなく人間に近いと思われている人間を宇宙人がわざわざ残す必要もなく、そしてブレンドンの語っていたT-001aという薬品が存在するなら、宇宙人からしても確実に始末しておかなければならない。

ブレンドンの死体が一階と二階にないのは確認した。

僕は三階の唯一鍵の掛かっていない屋敷主のオフィスに入る。

そしてその異変はすぐに見つかった。

床に広がる暗紅の血。鮮やかだったであろう血色は、暗く、光沢もとうに失せ、凝固している。部屋中央にその暗紅の源泉は存在した。

「……ブレンドン」

ブレンドンは仰向けになって、天井をその虚ろな目で見ている。僕はその死体の傍に寄る。

現実の果ての静けさが昨日のリーナを表すなら、このブレンドンは感情の昂ぶり。

乱雑な切傷に、滅多刺しの痕。浅傷と深傷が、服越しでも確認できる。この部屋に来るまでに、血痕はなかった。この部屋に意識を失ったまま運ばれ、そのまま殺されてしまったのだろう。

昨日の襲撃とはそのやり方が異なっている。

奴らは一つ一つの殺人に何かテーマを掲げている。

そんな風にしか思えない。

目を見開いたままのブレンドンの瞼にそっと手を乗せ、優しくその瞼を閉じてやる。

僕は静かに立ち上がり、この部屋を出る。

僕はもう迷わない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

応接間を念入りに探索する。

薬品の存在は宇宙人にとっても一つの懸念材料だ。ブレンドンは、奴らにその場所がばれぬよう徹底的に隠したはずだ。

まずは部屋の四方に置かれたチェストを調べる。

前に来たときは、書類しかなかったがどうだろうか。

僕はチェストの中を探す。しかしそこにはない。

ブレンドンが隠したものは、おそらく試験管に入った薬品と、ハリムへ向けた手紙の二つ。共にそれほど大きい物でもない。
この部屋も狭くはなく、インテリアも多いので、相当念入りに探さないと半日ぐらいはかかってしまうかもしれない。

――ミステリーなら肖像画の裏にありそうなんだけどな。

僕は冗談交じりに、窓際に飾られた肖像画を取り外し、その裏を確認する。

その裏には、粘着テープで留められた試験管と手紙があった。

直感でいきなり大本命を引き当ててしまった僕はその――偶然に面食らう。

いや偶然ではないのだろう。きっとこれが石の効果だ。

操れるのは人間の本能に通ずる感覚と確率。どういう原理かはわからないが、とても強力だ。

勝利の女神は存在する。後は彼女のために、僕が環境を整えるだけだ。

僕はハリムに宛てた手紙とある人物の《《無色透明》》の試験管を手に、この応接間を出る。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

部屋に戻ると、マドハンは小難しそうな顔をして、僕のカメラに食いついていた。

「何かわかったか?」

僕がカメラで撮った写真は、この村の風景や屋敷の内装。そして手掛かりになりそうな物品ぐらいだ。粗方、写真に関しては何度も見直しているので、特に目新しい物はないと思う。

「うーん、うちのじいちゃんってよくよく考えたらこの村の生き残りなんだよなぁ」

マドハンの祖父ダンは確かにこの村出身だ。それはあの家屋を見ればわかる。

「それがどうした?」

「まぁ、特になんもないんだけどな。よく生き残れたなって思ってさ」

まだこの村の真相の多くを理解できないでいる。

過去に僕らと同じ『追放』というゲームを行ったと黒い外套は言った。この屋敷主のバートが宇宙人との契約を無視してしまったことが発端だということは知っている。宇宙人と交わした契約は、簡単に言うとウラン鉱山の共同経営、見返しとしての技術の譲渡。

それくらいだ。

そしてその技術によってこの村は大きく発展することとなった。それ以外に僕は何も知らない。もしかしたらまだ三階の入ったことのない部屋にヒントがあるかもしれないが、鍵が無くて入ることができないでいる。

「そっちはどう?」

「無事回収できたよ。無色透明のT-001aもハリムへの手紙もね」

「そっか。結果は出なかったんだな」

無色透明という僕の結果を聞いて、残念そうな顔をする。

だがそれは違う。

「違うよ、マドハン。ブレンドンもそれを望んで彼女に使ったんだと思う。信じるために使ってあげたんだ」

思えばブレンドンの言葉には引っ掛かりがあった。薬品の結果をどう受け止めるかは君次第だという文言だ。こうしてこの無色透明のT-001aを見て、今は確信できる。

このゲームは誰かを疑うゲームなのではなく、信じるゲームなのだと。

ブレンドンは勝利のための布石を打ってくれた。後は僕次第でどうにでもなる。

希望を踏み台にして絶望が勝つのか、絶望を乗り越えて希望が勝つのか。

「これから僕の作戦を話すよ」

僕はマドハンに今の状況を含め、作戦の全貌を伝える。マドハンは最後まで真剣に聞いてくれた。この作戦はあまり出来の良いものとは思えない。

ただ圧倒的なゲームの支配権を――人間であるはずのフセインが握ってしまっている以上、僕はこれで勝負を賭けるしかない。

フセインを騙し、皆を騙す。

それが大前提だ。

「頑張れよ、にーちゃん」

「それじゃあ最後の仕事をしてくる。そっちも任せた」

 

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