027―マエヘ

真夜中、僕は物音と共に目覚めた。

午後九時になると僕らの意識は僕らの意思に関係なく強制的に閉ざされる。

それは宇宙人とて同じだ。奴らは三十分の襲撃時間の後、行動を禁止されている。

これは黒い外套の定めたルール。

決してこのゲームに参加する全員が逆らってはいけないはずのルールだ。

それなのに僕の意識はある。

――意識があるということを自覚している。

「おい、にーちゃん。起きろ」

どこか聞き覚えのある声。寝覚めてすぐの僕の頭は、意識は、完全には覚醒しきってない。

しかし身体が揺すられているのがわかる。

「おーい。にーちゃん? 起きろー!」

少年らしい快活な声だが、こんな時間帯だということもあり、声は最小限に抑えられている。

「起きろ!」

パチンッ。

僕は頬を掌で叩かれた。

頬に埋め込まれた痛覚受容体が刺激を感知し、神経を通り脳に情報として伝わる。

痛い。

「おはよう、マドハン。もう少し優しく起こしておくれ」

「おはようじゃないよ。今は真夜中! 深夜二時だよ!」

「なら起こさないでくれ。僕は少し疲れているんだ」

そう言って僕は再び眠りに就こうとする。

今は身体も精神も至る所が重い。

「寝るな! にーちゃん。おれ、お腹が空き過ぎて眠れないんだよ」

そんなこと言うためにわざわざここに来たのか。

僕らがこんな目にあっているというのに。

「――というか、どうやってここに来たんだ?」

どうしてマドハンは起きていられるのか。

「ん? 普通に来れたけど、それがどうしたのか?」

そうか。

マドハンはこの屋敷の中でどんなことがあったのか知らない。彼が知っているのは、日の入りに鳴る銃声音だけ。

僕の脳内を迷いや葛藤が蝕む。

マドハンに真実を話すべきか。どういう理屈でここに来ることができたのかは知らないが、少なくともマドハンはこのゲームに巻き込まれずに済んでいる。

僕が彼にこの出来事を話すことによって、彼に酷な選択を迫ってしまうのかもしれない。

薄暗い部屋の中、マドハンがベッドに横たわる僕の顔を覗き込む。

彼の双眸は今の僕では直視できないほど、熱意と闘志に満ちていた。

僕は彼の気持ちに答えたい。

今まで僕らの身に起きた悲劇をマドハンに話した。

陰惨な処刑も、襲撃も、僕らの敗北も。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「そうかそんなことがあったんだな。にーちゃんは頑張ったよ」

マドハンは僕の与えたバー状の栄養機能食品を片手に、親身になって僕の話を聞いてくれた。

「そんなに強いんだな。そのフセインって男は」

「……議論のコントロールも、処刑対象も、襲撃位置も完璧だ。僕らはとんでもない連中を相手にしてしまった。今更誰が宇宙人かわかったって何の意味もないよ」

このリアナ村に来たことがそもそもの間違いだった。

夜の外灯に集まる虫のように、僕らは無意識にこのリアナ村に辿り着いていた。この先に悲劇が待っているとも知らずに。

僕らは未知に対して貪欲になり過ぎた。

それでも僕の好奇心は未知に対してアンテナを立ててしまう。

「爆発の後、何か脳を揺さぶられるような感覚はあったか?」

僕はあの時のことを聞いてみる。僕らの周りにいた人間は皆、脳を直接なぶられるような感覚に陥ったはずだ。
マドハンがあの近未来銃の範囲外にいたのなら、夜動くことができるのも納得できる。

「あの気色の悪い感覚、にーちゃんもあったのか? てっきりおれだけだと思ってたよ」

マドハンも近未来銃の影響を受けている。

「あれは僕らにかけた洗脳の副作用。だからマドハンも今起きていられるはずはないんだけど」

「でもおれは平気だぞ?」

僕らは皆洗脳の影響を受けている。

マドハンだけがその影響を受けていない。

何が原因なのか。

年齢と言うことは無いだろう。ミラとマドハンは大体三歳差ぐらいだが、脳の成長によって洗脳を受けないなどということはなさそうだ。

僕らになくて、マドハンにあるもの。

脳裏によぎったのは少年の持っていたあの石だった。

「そう言えば、しあわせの石はどうした?」

議論に、追放に、襲撃に心を囚われていたせいであの緑色の石の存在を完全に忘れていた。

僕らとマドハンの違いは幸運を呼び寄せるというあの石だけだ。

「ん? ここにあるぞ」

マドハンは緑色の石、しあわせの石を取り出し、僕に渡す。

この石の影響でマドハンは洗脳を免れているに違いない。近未来銃を見てしまった僕は、今更何があったって、それが非現実的でも、十分納得できてしまう。

「洗脳の影響は受けないのはその石のおかげだと思う。そっちは何かわかったことはあるか?」

僕が体験したことのほとんどは喋り終えた。議論とは関係ないがマドハンの成果を一応聞いてみたい。

「うーん。特になかったなぁ。強いて言うなら、じいちゃんがこの屋敷のメイドにラブレター書いてたってことぐらいかなぁ。下書きがいっぱい見つかったよ」

「うん、どうでもいいかな」

「だよなぁ」

目新しい情報はなかった。

そんな情報も時期に何の意味もなくなるが。

ただせめて僕が死ぬ前に、マドハンの求めていたこの村の過去や始まりの事件ぐらいは知りたかった。

「そう言えば、そこに手紙落ちてるけど読まないの?」

マドハンはドアの前にある手紙を指さす。

「ん? 何のことだ?」

僕はマドハンの指さす方向に目を向ける。

そこには僕の知らない便箋が落ちていた。

僕は薄暗い光の中、ドアの前まで歩く。

その便箋は綺麗に折りたたまれている。僕は下に落ちているその便箋を拾い上げる。

僕が寝る午後九時前に、ドアの隙間を利用して、差し込まれたものだ。

僕は綺麗に折りたたまれたその便箋を開き、その内容を読み上げた。

親愛なるシャディへ
突然の手紙で申し訳ない。ただ君がこの手紙を読む頃には、もう私はこの世にはいないことだろう。どうして私がこんな手紙を出したか一から説明させて欲しい。まずは昨日の出来事を謝りたい。フセインにあの会話を聞かれていたことも、議論でしっかりと弁明できなかったことも全て私の責任だ。本当に申し訳なく思う。ただ私はこのゲームを諦めるつもりはないし、君にも諦めて欲しくない。まだ結果はわからないが、私は最後のT-001aを使った。応接間に使用後のT-001aと別の手紙を隠しておく。君がハリムのことを信用しているなら、彼にその手紙を渡して欲しい。薬品の結果もどう受け止めるかは君次第だ。君は誰よりも賢いが、誰よりも自分に悲観的だ。もっと自分に自信を持ちなさい。君にしか成し遂げられないことがあるはずだ。
最後に、君とこの村で過ごした日々は楽しかった。もし叶うならもう少し話がしたかったがしょうがない、それは叶わないようだ。
君ならこのゲームに勝てると私は信じている。希望は必ず前に進む。前を向いて歩きなさい、シャディ。
ブレンドン・ランバート

 

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