【025】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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025―ザンパイ

「それでは二日目の議論を開始する」

黒い外套の相変わらず濁った重低音が議論の会場である食堂に響く。

僕が今日の議論でやるべきことは、何としても追放の対象から外れること。宇宙人を判別できるというブレンドンを皆に信用されるように行動することだ。

僕にできることはそれだけだ。

今この場にいるのは、僕、ミラ、ブレンドン、ハリム、マイア、ガレン、クレトン、フセインの八人。

アンジョーは昨日の追放で、リーナは襲撃で死んだ。

そして僕はブレンドンの一晩の結晶でクレトンが宇宙人でないことを知っている。

「まずは今の状況を整理するところから始めましょうか」

ガレンが開始一番に口を開く。

「昨日の追放はアンジョー。投票で誰にも入れなかったことと追放時の反応を察するに、彼は人間だったと思いますが、異論はないですよね?」

それぞれ反応は違うが、特に大きなリアクションを取るものはいない。皆概ねガレンの意見に同意しているのだろう。

「昨夜の犠牲者はリーナ。聞いてなかった者はいないと思いますが、朝にブレンドンさん達が言っていたような推理で僕も概ね賛成です」

彼らのリーナ襲撃に関する推理はこうだ。

昨日の議論でシャディ追放派と反追放派と中立派に別れた。襲撃先で次の日の追放先が決まってしまう可能性が高い以上、宇宙人側も襲撃先は慎重になる。
宇宙人がどの立場にいてもここで同じ立場に立つ者を襲撃してしまうと、議論で不利になってしまう。
しかし違う立場の人間を襲撃してしまうとそれだけで情報になってしまう。宇宙人側はあえて同じ立場の人間や違う立場の人間を襲撃することもできるが、次の日の議論で、間違いなく言葉の殴り合いが始まってしまう。
だからここで襲撃しても何も情報を残さないリーナを襲撃することは、どの立場に立つ者でも合理的な判断だと言える。

これが朝、ブレンドン達が話していた推理だ。

「リーナさんはただハリムさんに票を合わせるだけでしたな。リーナさんは人間側からしても、宇宙人側からしても、おそらく厄介だったと思いますよ。まぁ、でもこれでハリムは人間味が強くなりましたな。忠実なしもべをわざわざ殺すようなものですからねぇ」

フセインの言葉に、ハリムが今にも怒声を上げようとしているのが見てわかる。ただその憤りを必死に押さえつけているようだった。

「チッ。情報がねえなぁ」

クレトンが舌打ちをして、そう答える。

僕らはほとんど情報を持っていない。

これは議論が始まる前に予見できたことだ。

だからこそブレンドンは自らの命を引き換えに、前進することを選んだのだろう。

ブレンドンはその時を待っている。議論が完全に停滞したそのタイミングを待っている。
そして今食堂が静まり返る。最高のタイミングが来た。

「そう言えば、みなさんに話したいことがありました」

ブレンドンが皆に聞こえるよう声を張り上げ……?

僕の耳から聞こえてきたのは、ねっとりとしたテノール。

違う。

この声はブレンドンのものではない。

――フセインだ。

「実は自分、誰が宇宙人かわかるんです」

食堂がざわつく。

ブレンドンが言うと思っていたセリフを、フセインが口にした。

僕はまだこの行動の意味を理解できずにいた。

フセインが目をカッと開き、気味の悪い笑みを浮かべる。そしてゆっくりと腕を上げ、ある人物に指をさす。

「あなたが宇宙人です。クレトンさぁん」

ブレンドンが見つけ出した人間をフセインは知っている。あのとき話していた内容が完全に漏れていた。

僕らは絶体絶命の窮地に立たされた。

「は? 何言ってんだ、お前」

クレトンが突然の宇宙人呼ばわりに戸惑いと怒りの混じった声を上げた。

「待っとくれ、皆。クレトンは人間だ」

遅れてブレンドンが登場する。

もうこうするしかない。

ブレンドンから見て、フセインは必ず宇宙人になる。
僕から見てもそうだ。

このままブレンドンが出なかった場合、フセインがこの議論のマウントを取ってしまう。そうすれば、クレトンは確実に追放されてしまう。

フセインを一日放置して、明日追放に持ち込むこともできるだろう。だけど目の前に助けを求める人間がいたとして、彼はそれを放置することができようか。

いやできない。

しかし、ブレンドンが出て来た所で、状況は絶望的だ。

食堂の空気はこわばり、張り詰める。

「どういう意味かしら? ブレンドンさん」

マイアがブレンドンに質す。

「ワシには誰が宇宙人かそうでないかがわかる」

「あなたもですか」

ガレンもブレンドンの言葉に不信感を持つ。当然だろう。

僕らは宇宙人側に先手を取られた。
後手に回ってしまったブレンドンに、この不利な状況を正す起死回生の一手はない。

何をしても、何を言っても、もう公平には見てもらえないだろう。

「ワシには宇宙人がわかる。T-001aという薬品を使えばその判別ができる。その一本はもうクレトンから摂取した髪の毛に使った。宇宙人の細胞に触れると七、八時間後にその薬品はピンク色に染まる。薬品は無色透明のままだった。彼は人間だ」

ブレンドンが答える。その方法をしっかりと皆に伝える説得力のある言い方なのだが、

「面白いこと言いますな。ブレンドンさん」

フセインがそれを許さない。

「随分と言い訳が上手いようで。クレトンとブレンドンが宇宙人。これで人間側の勝利ですな」

フセインから見れば、クレトンとそれを庇うブレンドンとは明らかに敵対する。

しかし、何も知らない人間から見ると、どちらが嘘をついているか見抜くのは難しい。

今までの信頼関係すらこの空間では何の意味もなさない。それは昨日の議論で痛いほど思い知らされた。

「ワシが宇宙人ならこのタイミングで仲間を庇うようなことはせん!」

仮にフセインが本当に宇宙人を判別することができ、ブレンドンが嘘をついている場合。

ブレンドンが仲間を庇って、わざわざ出てくるのはリスクでしかない。

ブレンドンの主張は正しい。

「昨日のアンジョー追放にしても、リーナ襲撃にしても、最善策を宇宙人は選んでいる。議論で自分が追放されないように巧妙に立ち回り、場の流れを作るアドリブ力に、洞察力。襲撃先は念入りに考え、想定され得るパターンを読み切る理解力に、判断力。私は宇宙人がどう動いても可笑しくないと思うけど」

マイアの言葉に、ミラも、ハリムも、ガレンも納得してしまっている。

僕は何も言い返すことができない。

ここでブレンドンを庇ってしまえば、自分も疑いの対象になってしまうのだろうか、そんな不安と恐怖で一歩が踏み出せない。

「おい待て。ふざけるな! 俺が宇宙人だって? どうやってそんなこと証明できんだ!」

僕の中では、クレトンが人間だということは確定している。このタイミングで自分が宇宙人を判別できると言ったフセインは、明らかに僕らの会話を盗み聞き、それに対する牽制だとわかる。

だからブレンドンの結果がなくとも、フセインがクレトンの名前を出した時点で、クレトンは人間なのだ。

「おやおや、こちらもあがきますなぁ。T-00何とかなんて知らないですが、僕にはわかるんですよ」

そう言って、フセインはポケットから半透明の球体を取り出す。

「これは僕が運営するサイトに寄せられた情報をもとに手に入れた物なんですがねぇ。僕、実は一度宇宙人を保護していたことがあるんです」

フセインの発した非現実的な言葉。

当然、議論の場は荒れた。

ただフセインはそんなことも気にせず、再びその口を開く。

「彼の名前はリー。最初に出会ったときは、それはもう醜い姿だった。彼はある星から別の星に向かっている最中、不慮の事故にあって、偶然この地球に不時着したらしいんですよ。彼は擬態もうまく使えないまま、地球人から逃れるようにして、そうして僕の許にやって来た。当時から熱狂的な宇宙人マニアだった僕はその存在に心ときめいた。そして僕は彼を保護することに決めた。彼と生活していく内に、彼はどんどん人間の姿になっていき、最後には普通の人間と遜色ないほど、人間らしくなったんです」

突然始まったフセインによる思い出話。

「約二、三か月の保護の末、彼はある物を僕にくれました。それは半透明の謎の球体だった。彼が言うには、擬態してしまった仲間を見つけ出すために使う物らしい。その宇宙人には体内に特殊な電流が流れていて、その電流に反応してその球体は光ると言いました。僕は半信半疑のままこの球体を試したんです。そしたら彼にだけ光って、僕を含めて他の誰も光らなかった。僕は確信しました。この球体は本物だと!」

フセインはその半透明の球体を皆に見せびらかすように掲げた。

「僕はシャディさんが見せてくれた謎のサインが書かれた契約書の写真を見て、もう一つのことを確信しました。この村にいる宇宙人とかつて僕が会った宇宙人は同族だと言うことに! そして今日、宇宙人を見つけました。それがあなたですよ、クレトン!」

もう一度、フセインがクレトンを指さす。

「おい待て、皆! こんな出鱈目な話を本当に信じるのか?」

クレトンは最初の戸惑いや怒りを焦りに変える。確かにフセインの話は出鱈目だ。

だがそれは僕が、フセインが嘘偽りを言っていると始めから知っているからわかる。

何も知らない皆がどういう反応をするのかは察しがつく。
ましてやこんな生死をかけるような議論だ。僕たちにまともな思考をする余裕は残っていない。

「おいどうして、誰も何も言わないんだ! 俺が宇宙人でないことは知ってんだろ、ブレンドン。早くこの誤解を解いてくれよ」

「皆、フセインの嘘八百の戯言に騙されるではない。彼の話はどれも非現実的だ」

クレトンが人間であるということを必死で説得するブレンドン。

だがしかし、

「そもそもこの状況が非現実的なのに、今更、そこを突っ込んだってしょうがないと思うわ」

マイアにひらりとかわされてしまう。

フセインは次の行動に移った。

その半透明の球体を、今朝から意気消沈しており、議論の最中だというのにどこか目が泳いでいたハリムにその半透明の球体を投げる。

とっさに気付いたハリムがその球体をキャッチする。

「皆さんにもお見せしましょう。ハリムの持つ球体は光っていますか?」

光っていない。

「次はそうですねぇ。隣にいるガレンに渡してください」

ハリムはそのまま横に立つガレンに球体を渡す。

「どうですか? ガレンの持つ球体は光っていますか?」

光っていない。何の変化もない。

「じゃあ、それをクレトンに渡してください」

ガレンは隣に立つクレトンにその球体を渡そうとするが、クレトンは露骨に手に取ろうとはしない。

「どうしたんですか? クレトンさぁん。なぜ取ろうとしないんですかぁ?」

「絶対この球体には細工がしてある。どうせ俺が手に取った瞬間に光らせるんだろ? なぁ!」

フセインの煽るような口調に、クレトンは激昂して返す。

「そんなこと言ったって、誰も信じませんよ。自分の潔白を証明したいなら、まずはその球体を手に取らないと。もしかしたら僕の間違いだった可能性もありますし、ねぇ?」

皆の冷ややかな目に煮を切らしたクレトンはその球体を強引に受け取る。

しかしその球体は光らなかった。

「ほら! 皆見たことか。俺は宇宙人じゃねぇ。人間だ! どうだ!」

クレトンは球体が光らなかったことに一喜し、勇ましく皆にその球体を見せびらかす。

その姿はさながら、クリスマスにプレゼントを貰い、親にそのプレゼントを自慢する子供のようだった。

「あれれぇ。光りませんねぇ、僕の勘違いだったんですかな」

しかしながらクレトンの持っていた球体が今更光りだした。

「おや。おやおやおや? 皆さん、球体が光りましたよ」

ねっとりとしたテノールのピッチが徐々に高くなる。少しずつ正体を現していくフセイン。

フセインはクレトンを弄び、この状況を楽しんでいる。そしてクレトンからその球体を奪い取る。

「おい、待ってくれよ。俺は宇宙人じゃねぇ。その球体が光ったのは何かの間違いだ! もう一度貸してくれ。今度こそ潔白を証明してやる!」

何と哀れな光景だろうか。クレトンも僕も、ブレンドンも。

僕らの惨敗だ。

ここからどうあがいたってこのフセインという男に勝てる気がしない。彼は他人の心理を読み取ることに長けている。

半透明の球体の出鱈目を一切信じていなかったクレトンも今ではこの有様だ。

まともに戦って勝てるビジョンが見えない。

惨敗。敗北。劣敗。敗残。

――僕らの負けだ。

 

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