【023】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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023―ヘンカ

昨日より今日の僕は冷静だ。

しかしだからと言って、リーナの死を払拭できるはずもなく、また部屋に戻ってはどんよりとしたまま時間が過ぎていくのを待っていた。

まだ議論まで時間はあるが、気が滅入ってまともな思考も出来ない。

他の皆は議論に、宇宙人に本気で向き合っているというのに、僕だけが現実から目を背け、逃避している。

全くもって最低野郎だ。

僕はベッドの上で仰向けになって、天井の模様を眺めては、目で線をなぞっていた。

かれこれ二、三時間はこんなことをして、ただただ時間が過ぎるのを待った。

しかし、流石にこんなことをしていると空腹が気になってしまう。

先ほどの光景を差し置いても、空腹感は人間の本能だと実感してしまうぐらいには、僕の身体が満たされることを望んでいる。

ただ食堂に行く気分でもない。

そして部屋に閉じ籠ってばかりいたので外の新鮮な空気を吸いたくもある。

僕はリュックに詰めてきたバー状の栄養機能食品を取り出し、広場にあるベンチへ向かうことにした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

広場のベンチには誰も居ない。

僕は空を見上げた。

僕らはこのリアナ村で悲惨な目にあっている。

そんなこともお構いなしに、空は青々として爽快。
雲一つない快晴。

最高のピクニック日和だ。そんなピクニックに来てのんのんとしている幸せな家族も、夏休みを遊びで満喫している子供達も、この麗らかさに惹かれ散歩に勤しむ老人も、僕と同じ空を見ている。

空はいつだって平等なのに、僕らはいつまでも不平等。

「……不幸だ」

いや不幸と言う言葉では言い表せないほどに、僕は史上最低な日々を送っている。

空を見上げるのを止め、目線を広場中央へやる。

昨日赤く盛っていた炎は完全に消え、焦げ付いた土が黒く紋様を描いている。

「アレどういう仕組みだったんだろ」

こんな時でも僕の好奇心が歩みを進めるのを止めない。

僕という人間が生まれ持って手にした性なのかもしれない。

僕はベンチから立ち上がって、広場中央へ向かう。

焦げ付いた土の表面を凝視するが、これと言った特徴はない。
単なる焦げ跡だ。土を手に取り、触感や匂いを確かめる。

この匂いはガソリンだろうか。

これだけの規模の紋様を描けるぐらいだから、ガソリンで引火したというのが当たり前なのだが、その当たり前に引っかかりを覚えてしまう。

人の脳に直接ダメージを与えられる最新鋭機を持ちながら、どうして紋様を描くのにここまで原始的な方法を使うのだろうか。

いやそもそも紋様を描く意味がわからない。

そして僕があの家屋に行くまでこの紋様はなかった。

「痛ッ」

考えながら歩いていたせいか、地面の凹凸に足をぶつけ、転んでしまった。

膝頭が地についた状態になり、地面に落ちている白い化合物のような物体に気付いた。何らかの破片な様だが、これだけじゃ何なのかわからない。

元々この広場にあったものなのか。
昨日の一件で新たに生まれた物なのか。

白い化合物の細部に目を向ける。所々に焦げ付いた跡があるが、経年劣化のような特別な損壊はない。

そう言えば昨日ここに来た時、大きな爆発音がしたはずだ。

昨日黒い外套が立っていた場所に走って向かう。

土の表面は先ほどの紋様部分よりも黒く、より焦げ付いており、土が抉り取られたような形をしている。
ここが昨日の爆発の爆心地なのだろう。

爆破範囲は目視で半径三メートル程。

あんまりやりたくはないのだが、先ほどの白い化合物を口に含め、すぐ吐き出す。

「なるほど」

爆弾の正体は小型のプラスチック爆弾。

爆破で吹き飛んだ白い化合物からはほのかに甘い味がした。プラスチック爆弾の典型的な特徴だ。

こちらも原始的と言ったら語弊が生まれそうだが、黒い外套の持つ銃に比べたら圧倒的に技術水準の低い物だ。

ただ僕の推理もここで打ち止めなのだろう。

なぜ爆破が、紋様が生まれたかはわかった。

しかし、どうしてこんなことをする必要があったのかはわからない。結果はわかってもその過程がわからない。

そこは考えても仕方ない。

僕は大人しくベンチに戻り、栄養機能食品を口に入れる。憂鬱な時間はまだ遠い。

短時間であの紋様を描くには。

なぜここまで原始的であるのか。

考えても答えは出てこない。

良い気休めだった。僕はぐったりとベンチの上に横たわって、空を見上げる。今はこの燦燦とした太陽に心が浄化されるのを待とう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

腕時計に目を遣る。

現在時刻は午後三時半。

どうやら一時間ほど仮眠をとっていたようだ。ベンチに座ったまま寝ていたせいで、身体のあちこちが固まって痛い。

僕は深く呼吸をして、身体を伸ばした。

「どうしたシャディ昼寝か?」

後ろを振り返ると白髪と黒髪が混ざったロマンスグレーの目立つ男ブレンドンが立っていた。

油断していたからか、足音の一切にも気が付かず、至近距離での接近を許してしまった。

「すまんな。驚かすつもりはなかったのだがな」

「はぁ、そうですか」

いつもの癖でどっちつかずの返事をしてしまう。

「隣良いか?」

「……良いですけど……」

ブレンドンのことはこのメンバーの中ではかなり信頼できる方だ。しかし他人に二人でいる所を見られ、無駄に勘繰られるのは避けたい。

「すぐ終わるから安心してくれ」

そんな苦悶を察するように、ブレンドンは言を発した。

「わかりました」

仕方なく了承の返事を出す。

「しかし、こうしておるとジェイコブのことを思い出すな」

「ジェイコブ先生ですか?」

ブレンドンがジェイコブの名前を出して、少しばかり驚いてしまう。

「今じゃ生意気に教授ぶっているが、学生の頃は本当に好奇心があって可愛い奴だった」

ジェイコブがC大学の生徒だったということはいつの日かに聞いた話だ。しかし先生がブレンドンと学生の頃から既に関わりを持っていたことは知らなかった。

「ジェイコブは講義中こそ居眠りなんかしおって不真面目だったが、講義が終わったらせこせことワシの許までやって来ては色んな話をした。誰よりも好奇心の強いやつだったよ」

どこか聞いたことのある話だ。

まるで今の僕とジェイコブのような関係性だ。

「君はジェイコブにとてもよく似ている」

ブレンドンは昔を懐かしむように独り言のようにそんな言葉を口にした。
ジェイコブは僕とブレンドンが似ていると言った。そしてブレンドンは僕とジェイコブが似ていると言う。

「ジェイコブ先生は僕とブレンドンさんが似ているって言っていました」

「あっハッハ。まぁ、そうだろうな。似た者同士惹かれあうものだ。まさに類は友を呼ぶだな、それとも朱に交われば何とやらかもしれんな。はは」

ブレンドンとジェイコブと僕は多少の性格の差はあれど、皆それぞれ持つ性質は同じなのかもしれない。

「君と会話をしていると昔のジェイコブとの会話を思い出す。あっハッハ」

僕が大学で普段ジェイコブと話すように、ジェイコブもブレンドンと話をする。

きっと僕らは物凄く波長が合う。

ブレンドンと生きて帰れたら、どんなに素晴らしいことだろう。

僕とジェイコブとブレンドンの三人で、愉快で素敵な宇宙トークをしている。

そんな未来がまざまざと思い浮かぶ。

「シャディ、議論の準備は出来ているのか?」

先ほどの和やかな様子とは一転して、ブレンドンはどこか神妙そうな面持ちで僕にそう質す。

「いえ、正直全然できていません。たぶん今日追放されるのも僕で……」

「そうだな」

ブレンドンは僕の言葉を否定しない。ブレンドンは朝の僕の様子でも見て、今のままでは駄目だと思っているのだろうか。

そんなこと僕もわかっている。

ただ僕は弱い人間なのだ。今更どうあがいたって逆に疑われるだけだ。

「シャディ。ワシが誰かを宇宙人かそうでないか知ることができるとしたら、お前は信じるか?」

「え?」

ブレンドンの発した言葉に躓いて、鳩が豆鉄砲を食ったような滑稽さが漏れてしまう。
『宇宙人かそうでないかを知ることができる』、そんな短いセンテンス聞き取れない訳もなく、ともすれば文字面以上のその重みを探してしまうほどだった。

本当に宇宙人が誰か知ることが出来るなら、僕らはこんなことを強いられるのも今日、明日で終わる。

「本当ですか?」

「実は昔、宇宙人の死体を解剖したことがある。そこで人間と宇宙人の細胞の構造が違うことがわかった。細胞は全ての生命体が持つものだ。そしてそれぞれの生命体が固有の細胞を持つ」

これまで多彩な研究をしてきたブレンドンと違って、僕は生物学には少し疎い。だがまだ理解できる範疇だ。

「ここにいる奴らを一緒くたにしていいかはわからん。だがワシが見た宇宙人の細胞は人間と比べ、異常なほど膜が発達していた。おそらくワシらが住むこの地球と比べてかなり厳しい環境で進化していった結果だろう。奴らはどんな環境でも生命活動を維持できる。黒い外套のアヤツが言っていた擬態というのもこの性質のおかげだろう」

ブレンドンは生物学に精通していない僕にもわかりやすく、砕いて説明してくれた。本当はもっと複雑で、ここまで理路整然としてはいないのだろう。

「……それでどうやって調べられるのですか?」

僕はブレンドンに質問する。

結局、重要なのはその部分だ。

「今ワシはT-001aという薬品を二本持っている。宇宙人の細胞から採取して合成した特別な薬品だ。こんな所で使うとは思わなかったが、これは奴らの細胞に触れるとピンク色に染まる薬品だ。人間の細胞に触れても無色透明なまま。しかしこの薬品にも欠点がある。最低でも七、八時間触れていないと反応しないことだ」

ブレンドンは僕を信用している。そうでなければこの会話は絶対にしないのだろう。

「昨日の夜、試しに一本使ったが外れだった。クレトンは人間だ。そしてワシは今日の議論でこれを公表する」

公表。きっとその意味をブレンドンは当然把握しているはずだ。

「え? そんなことをしたら、ブレンドンさんが……」

襲撃されてしまう。
今日の夜、確実にブレンドンは奴らの餌となってしまう。

そんなこと絶対駄目だ。

「わかっとる。ただワシがこれをやらんとこの村は前に進めない」

だからと言って自分を犠牲にしては駄目だ。
そんなの何の意味もない。

意味ないじゃないか。

「この話を知っているのは君だけだ。ワシは聡明な君を誰よりも信じている」

「そんなこと言ったって……何で……」

自分を犠牲にしてまで得る勝利に何の意味があるのか。

「ワシはもう人生に満足しておる。ワシの命で君達若者が救われるのなら、本望だ」

僕は強さがわからない。

ミラの持つ純粋。

ブレンドンの持つ自己犠牲。

僕は誰よりも弱い。だから僕は強さを知りたい。

 

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