【021】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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021―ツヨサ

――アンジョーが死んだ。

いや、僕らが殺した。その事実だけが僕に深く突き刺さる。

時刻は八時半頃。

あと三十分で僕らの意識は強制的に消える。

こんな意識が消えてくれるのなら、早く消してほしい。

追放が終わり、嘔吐感を抑えながらなんとか自室に着くと、そのままベッドに野垂れ込んだ。

そこからは一分一秒が長く感じた。

黒い感情が僕の睡眠を妨げる。

目を閉じようも、額に突き刺さる殺意の弾丸とそこから流れる悲愴の鮮血が脳裏を離れない。

――消えろ。消えろ。消えろ消えろ消えろきえろきえろきえろきえろ。

脳裏に焼き付いて、こびりついて、刷り込まれて、束縛されて。

明日もこんなことが起きてしまうのか。

リアナ村にさえ来なければこんなことにはならなかったのに。

そしてこの後、また一人この村から消える。

もう僕には耐えられない。

――消えろ。消えろきえろきえろきえろきえろきえろきえろきえろ……きえ……ろ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

朝が来た。

決して寝覚めが良いとは言えない。

僕が今生きているということは、他の誰かが死んだということ。
その事実を僕は喜ぶべきなのか、それとも悲しむべきなのか。

現在時刻は朝七時。

ゲームはまだまだ始まったばかりだ。

頭は黒い感情が蠢いてまともに回らない。
心身共に重い。

それでも今日の犠牲者ぐらいは確認するべきだろう。
僕は重い足取りのまま食堂へ向かった。

「シャディか。おはよう」

ブレンドンはいつもと変わらない口調で、いつもと変わらない態度で僕に挨拶をする。

「おはようございます」

挨拶をされた以上、僕も返さなければならない。
なるべくいつものトーンで口に出そうとしたが、どうにも低くなってしまった。

自分でも気づかないほどに、昨日の光景が僕の精神を蝕んでいるようだ。

「シャディも朝食か?」

キッチンから鼻腔をくすぐる良い香りが漂ってくる。

「今日も彼女は作ってくれるんですか?」

「ああそうだ」

どうして彼女は昨日あんなことがあったのにも関わらず、皆の為に尽くすことが出来るのか。

「ブレンドンさん、どうぞ。あ、シャディさんも今すぐ持ってきますね!」

「あぁ、ありがとう」

有耶無耶なまま返事をしてしまった。
横には既に食事に勤しんでいるブレンドンがおり、昨夜から何も食べていなかったので、その匂いに釣られ、ついお腹が鳴ってしまった。

「フッ。その様子ならまだまだ大丈夫そうだな。あっハッハ」

ブレンドンに鼻で笑われた。そして自分でもまだ食欲があることに驚いた。

「水のない水車は動かない。いい推理をするためには美味い飯が必要だ。よく食べて、頭を働かせるんだぞ」

僕にはわからない。
自らの手で共に過ごしていた仲間を殺してしまったブレンドンがなぜここまで正気を保っていられるのか。

昨日の悲劇が全て幻だったのかとすら思えてしまう。

「シャディさん。できましたよ」

「……あ、ありがとう」

いつもと変わらない笑顔で、いつもと変わらない朝食を運んできてくれる。手に取ったフォークでベーコンを口へ。

あんな悲惨な出来事があっても、料理の味だけは変わらない。

美味い。

今だけは日常でいられる。

「シャディ、ミラ君。この後誰がいないのか確認したいんだが、手伝ってくれるかね?」

それは僕も気になっていたことだった。

僕は一緒に行くとして、ミラまで連れて行くのは、この状況において長時間二人で行動することが疑いの対象となってしまうからだろう。

「わかりました」

「はい。朝食の後片付けが終わったら、手伝いますね」

もう少し食べ終わる。食べ物を口にして、少し体力がついてきた。

ただ、まだ今は余計なことはあまり考えたくなかった。

昨日の光景を思い出してしまうとまた正気が保てなくなりそうで怖い。
今はこの一時の至福に身を甘んじていたい。

「なら、僕も片づけを手伝うよ」

少し気を紛らわしていたかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

朝食を食べ終わり、僕は今キッチンにて皿を洗っている。

ブレンドンは食堂で考え事をしており、隣では僕と同様、ミラが鼻歌交じりに調理器具を洗っているようだ。

昨日こそ陰鬱としていたが、今ではもう陽気で、いつもと変わらない天真爛漫な少女だ。

いや、もしかしたらそう見えるよう装っているのかもしれない。

「君は、本当に強いね」

「ん? どうしたんですか、藪から棒に」

作業に集中していたからか、つい思っていたことが口に出てしまった。

「いや、何でもないよ」

「ふふ、そうですか?」

今の僕にはその笑顔が眩しすぎた。

何だか僕とは住んでいる世界が違う。

昔から心の弱かった僕にはわからない。学校で嫌なことがあったら、すぐに逃避した。

逃避して、自分の趣味に没頭した。
学校には無い神秘に心が惹かれた。

だけどそうしていく内に、学校に自分の居場所が無くなっていった。

広い宇宙と狭い現実。

僕にこの世界の居場所は無かった。

「強い人なんていませんよ。人は弱い生き物です。だからみんな集まって自分を強く見せたがるんです」

集団心理。複数の人間が集まった状態で形成される特殊な心理。

集団心理下の人間は自己の言動に責任を感じなくなってしまう。そして自分に大きな力を持っていると勘違いする。
だから、その言動はより感情的になり、より過激になる。

ミラは昨日の議論を揶揄しているのだろうか。僕らはその集団心理によって、アンジョーを殺した。

僕は集団心理を利用して、立派な殺人を犯した。

「ならどうして君は――」

どうして君はそんなに強くいられるんだ。

「信じたいと思ったことを信じる。おばあちゃんが私に教えてくれた言葉です。私にはおじいちゃんも両親もいません。おじいちゃんは生まれる前に、両親は物心がつく前に亡くなったと聞いています。おばあちゃんはずっと一人で私を育ててくれました」

彼女の育て親が祖母のステラだったことは僕が自己紹介をした時に聞いた話だ。彼女の同年代に比べ異常に発達した炊事洗濯スキルは、祖母との二人暮らしの末に身に付けたものなのだろう。

「おばあちゃんが小さい頃から、信じたいと思ったことだけを信じればいいってよく言ってくれたんです。おばあちゃんが何でこの言葉にずっとこだわってたいたかはわかりませんが、私はこのゲームを信じたいものを信じて勝ちたいです!」

彼女は僕らの中で誰よりも勝ちを見ている。

誰よりも前を向いている。

誰かの粗を探して、疑いを擦り付けて、自分の生存だけを考えていた僕とは大違いだ。

「そうか……」

「だけど私、頭はあまり良くないので、困ったときはシャディさんを頼っていいですか?」

僕には眩しいミラの笑顔がそこにはあった。

信じたいと思ったことを信じる。

――彼女の笑顔もその強さも僕にはわからなかった。

 

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