【020】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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020―ツイホウ

議論時間は残り三十分程度。

標的を定めた皆はもう止まることはないだろう。

もはやその標的が人間か宇宙人かなんて関係ない。

皆、自分の命欲しさに、そして恐怖や否定観念に満ちた空気の魔力によって、必死に自分を正当化する。

かつて未開人や有色人種を差別したように、戦争で様々な虐殺が行われてきたように、ヒーローが絶対的な強者であるように、僕らは正義や平和、愛を盾に平気で非道を行える。

僕らは欺瞞観念によって支配されている。

――人間は時に、残虐で、凶悪だ。

「アンジョーさん。どうして黙っていたですか?」

フセインがアンジョーに質問を投げかける。

「俺は誰も疑う気はない」

アンジョーがその質問に答える。

論点もずれているし、ともすればそれは答えにすらなっていない。

ただきっとこれは彼の本心なのだろう。

なんとなく皆それには気付いている。

ここ数日の彼の行動を見れば、そんなこと嫌でもわかってしまう。彼は人と人が争うのが見たくない、ただそれだけだ。

「誰がそんな綺麗ごと言えっつったんだ。そういうこと言えば追放されないとでも思ってんのか?」

皆の視線がアンジョーの許へ向かう。クレトンの相変わらず厳しい口調も飛ぶ。

「これは俺の本心だ。言い直すつもりはない」

そしてアンジョーも自分の意見を決して曲げない。

「もし俺を疑っているのなら、それは見当違いだ」

アンジョーは自分が宇宙人であることを真っ向から否定する。

しかし、

「誰だって自分が疑われたらそう言いますけどね。あなたは自分が宇宙人ではないと証明できますか?」

ガレンがそこに追い打ちをかける。殺意むき出しの言葉だ。

『ない』の証明をさせるのはほぼ不可能に近い。
悪魔の証明を意図的に使った詭弁中の詭弁だ。

「ない。ただ俺は違う」

「もう今日誰追放か決まったんじゃない?」

「そうね」

リーナもマイアも今日の追放をアンジョーに決め打ったようだ。

「わ、私は……」

ミラも何かを言いかけたが途中で止めた。
これ以上誰かを庇い続けたらどうなるか察したようだ。

もう議論の時間も少ない。

そしてブレンドンもハリムもそして僕も沈黙を貫いた。

「それでも俺は違う。ただ今日はもう俺でいい。俺が追放されて、俺たち人間が助かるならそれでいい。これ以上、醜い争いは見たくない」

アンジョーは死を目の前にしているのに、その言葉は淡々としていて、そして悲愴に満ちている。その表情も双眸も、絶望色に染まっている。

「決まりね」

淡々としたマイアの短い言葉が静寂な食堂に響いた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「これで議論は終了だ。これより投票を始める」

後ろで静観していた黒い外套が議論の終わりを告げる。
予め用意していた紙を僕たちに配り終え、口を開いた。

「回収は三分後。それでは書け」

もう書く人物は決まっている。素早く名前を書き、紙を裏返し、そのまま待機する。どうやら皆ももう書き終わっているようだ。

三分が経ち、黒い外套が紙を回収し、すぐさま集計を始めた。

「集計は終わった。それでは今日の追放者を発表する」

もう結果はわかりきっている。

「九票で――アンジョーだ」

黒い外套から、無慈悲にもその名前が告げられる。一票足りないのはアンジョーがどこにも入れなかったからだろう。

「全員、屋敷の庭にある花壇へ来い」

僕らは屋敷の外へ連れ出された。辺りは夕暮れ。もうすぐでこの村を暗闇が覆う時間だ。

「それでは今から『追放』を始める」

黒い外套はその布の奥から銃を取り出す。

そしてその取り出した銃を乱暴に地面に放り投げる。拾えと言わんばかりに。

その銃は午前中に見た近未来兵器と呼べるような物ではなく、狩猟で使われるような単身銃だ。

しかし、地面に転がっているその単身銃を誰も拾おうとはしない。

「まさか、君達が選んだ追放者を私がわざわざ殺すとでも思ったのか?」

僕らは黒い外套がその単身銃で何をさせようとしているかに気付いた。

「この死の責任は君達が取るべきものだ。君達の手で殺し、その罪悪感は君達が一生背負っていかなければならない。

――死とは儚くも、永遠であるものだ」

黒い外套の妙に感情の籠った重低音が心を揺さぶる。

今の僕に誰かを殺す勇気なんてない。

ただ目の前にある単身銃を見ていると、『追放』という意味を何となく思い知らされてしまう。

これからアンジョーが死ぬ。

僕の作った流れで、僕らの票で、僕らの殺意で。

「ワシがやる」

ブレンドンは地面に転がっている単身銃を拾い上げ、土を軽く払う。

ブレンドンがその単身銃を握る姿は様になっていた。

ブレンドンが率先して銃を拾ったのは、過去に狩猟経験があったからなのか、それとも今のこの状況に何か感じるものがあったからなのか。

「アンジョー何か言い残すことはあるか?」

黒い外套がアンジョーに尋ねる。

僕は黒い外套によって遠く離されたアンジョーの最後の言葉を耳に入れようと必死になった。

アンジョーはこの場所に着くまで、そして今も、従順だった。

『追放』を知らない他者から見たら、この後誰が死ぬのかなんてわからないのだろう。

これから自分が殺されるというのに、アンジョーは従順だった。

彼はこの世界に絶望した。
快く死を受け入れている。

彼は首に掛けてあった十字架を取り出し、指を組む。しばらく彼は俯き、最後にこう告げる。

「皆の希望を俺は信じている」

それだけだった。

ブレンドンは単身銃を構え、その銃口をアンジョーの頭部に向ける。

拘束や自衛のための照準ではなく、殺意を込めた照準。一撃必殺の弾丸を確実に命中させるための照準だ。

「いいのだな、アンジョー」

ブレンドンはアンジョーに対し、最終確認をする。

ブレンドンは何も言わずこの役を買ってくれた。
彼にとってもそれは苦渋の決断だったに違いない。

少しの間だが、共に過ごした人間を自らの手で殺してしまうことなど僕には絶対出来ない。

アンジョーは無言のまま、ブレンドンに視線を合わせる。

アンジョーの最後の意思表示だった。

パアァァァァン!

暗闇がこの黄昏を襲っていくように、アンジョーの額へと放たれる鉛玉が、その意識を奪い取っていく。
額から血をまき散らしながら、後方へ倒れていく。

単身銃の残響が消え去るまで、空気は静まり返っていた。誰もが目の前の光景に目を伏せ、声を必死に抑える。凝視できる者などいない。

――嘔吐感。倦怠感。不快感。嫌悪感。抵抗感。

全身が目の前の光景に拒絶反応を示す。胃から逆流して来そうなものを抑えようと手を口に当てる。

僕は必死になってそれを飲み込こもうとした。口の中に広がる酸性質の刺激に、苦み。

僕は我慢し、その死体の許へ歩いていくハリムに目をやる。

ハリムはアンジョーの脈や対光反射を確認し、静かに立ち上がる。そしてゆっくりと首を《《縦》》に振る。

亡くなってしまったという横に首を振るサインではなく、確実に殺せたという縦に首を振るサインだ。

「ご苦労。これで追放は終わりだ」

黒い外套はブレンドンの持つ単身銃を回収し、再びそれを外套の内側に戻す。

「襲撃は九時からだ。各々好きなように過ごしたまえ。その人生にせめて悔いが残らないように」

黒い外套は屋敷の方向へ去っていく。

残された僕らはただただその死体を見ないように目を背けていた。

 

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