【019】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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019―ヨワサ

黒い外套の濁った重低音が消え、食堂が静まり返ってしまう。

皆はその表情に各々の感情を浮かべる。

これから僕たちはこの中から一人を追放する。
いや追放というのは少し聞こえがいいかもしれない。

僕らはこの中から一人を追放の名のもと殺してしまう。

それが人の皮を被った宇宙人なら良い。
しかしもしそれが人間であったならば。

――僕は殺人の一端を担ってしまう。

ここでは法律も道徳も通用しない。

僕らは恐怖によって支配された傀儡人形。
宇宙人の自己満足の為に囚われた奴隷《おもちゃ》だ。

「ワシらがここでグズグズしたって何も変わらない。今はアヤツの言う通り議論を進めよう」

ステラが消え、この中では最年長になってしまったブレンドンの一声によって、場の空気は変わる。

皆は一様にブレンドンにある種の眼差しを向けた。

「議論の時間は一時間。長いようで短い。慎重に使わねばならん」

ブレンドンは頼りになる。どんな時も冷静で、行き詰った皆を確実に前に進めてくれる。

「今はヒントも何もない。とりあえず昨夜は皆何をしておった?」

誰が怪しいかなんてわからない。

ステラ消失と橋の破壊は昨夜から皆が食堂に集まった朝七時頃の間に行われた。

そこの証言からしか誰が怪しいかなんてわからない。

しかしその話題で、誰が一番怪しまれてしまうのかは、自明だ。

「私は夕食の片づけを終えた後、十時ごろにおばあちゃんの部屋に行って、一時間ほど話してから、自分の部屋に行って寝ました。目撃者はいないと思います」

ミラが真っ先に話す。その次に口を開いたのはリーナだ。

「あたしは昨日の夜から朝までずっとハリムの部屋にいたよ。何していたかなんて言わなくて良いよね」

「ちょっと、リーナ。……彼女の言う通り、俺と彼女はずっと同じ部屋にいた。僕も彼女も何もしていないよ」

ハリムが照れたように口を出す。
二人のアリバイが証明された。
勿論、二人が口裏を合わせている可能性もある。

「俺は十二時ごろまで、ガレンと一緒に車に戻ってこっちの仕事をしていた。だよなぁ、ガレン」

「ええ、そうです。車に戻って仕事をしていました。車は村の外にありますから、十二時ごろまでは橋の確認ができましたよ」

クレトンとガレンの証言。ただし、朝までが犯行時間なのでアリバイにはならない。

「次は私でいいかしら。私は夕食後、夜中の二時頃まで書斎にいたわ。目撃者がいないから、私も犯人候補かしら。当然やってないのだけど」

マイアもアリバイがない。

「僕はブレンドンさんと食堂で話をしていました。時刻はそうですな。十一時頃だったかな」

フセインの証言にブレンドンも被せるように口を開く。

「うむ。ワシはその後、自室に戻って調べ物をしていたが、当然、フセインにもワシにも犯行は可能だ」

「俺は夕食後、十一時頃まで村の中でランニングをしていた。橋付近で、ガレンとクレトンの声が聞こえたから、あいつらの話は本当だと思う。それだけだ」

次に声を出したのは、今まで寡黙気味だったアンジョー。

これで僕以外の証言が取れた。

そして案の定と言うべきか、自分の許に皆の視線が集中する。僕だって最後に話をしたい訳ではなかった。話すタイミングが被りに被って出ることができなかったのだ。

「僕は夕食後、少し考え事をしてから、そのまま寝ました」

僕に言えることはこれだけだ。これが事実であり、真実。

そして、この中で一番疑われてしまうのは、

「なぁ、シャディ。お前だけ朝いなかったが、何してたんだ?」

当然、僕だ。

誰だってこの中なら僕を怪しむ。

そうして朝の一件を再度に渡ってクレトンが突っかかって来た。

「だから、朝が苦手なだけですよ」

「それにしては、昨日の朝は早かったわね」

マイアの一言で皆の攻撃対象が僕になる。

「そうですな。確かに怪しい」

「だな」

もはや皆の冷静さは失われていると言って良い。

自分の生存だけを考え、他人の粗を探し、揚げ足を取ろうとするのに必死だ。
僕は宇宙人から格好の的になってしまった。

「昨日の朝は調べたいことがあったので早く起きただけです。それ以上でもそれ以下でもない」

話題の中心が僕になってしまった以上、このままでは確実に僕が追放されてしまう。

これが村の選択なのか。

駄目だ、それは間違っている。

逆転の一手。
今の僕にこの状況を覆す打開策があると言えばある。

しかし僕の好きな方法ではない。

ただ自分の命のためなら、そのプライドは簡単に捨ててしまえる。

「あ、あの……」

「とりあえず今日の追放はシャディでいいんじゃないかしら、皆の証言から特に怪しいところはなかったでしょうし」

マイアの言葉が僕を切りつける。

「まぁ、俺も賛成だな」

クレトンもそれに同意する。

「――あの、私はシャディさんじゃないと思います!」

先ほどから何かを言いた気に表情を歪めていたミラが勇気を振り絞り、精一杯の声を上げた。

なぜ僕を庇ってしまうのだろうか。

このままでは彼女も間違いなく怪しまれてしまう。空気に逆らうとはそういうことだ。

とても合理的とは思えない。

「どこから来るんですか? その根拠は」

フセインが僕を庇ったミラを口撃する。

「シャディさんは、その、私の朝食を食べてくれました。シャディさんは決してあんなことするような人には思えません。私は私が信じたいと思ったものを信じます!」

ミラはその内心を皆に吐露する。

ミラは純粋だ。純粋で、正直で、心の中に決して曲がらない芯を持っている。

彼女はずっと強い。

僕とは違って。

「そんなことで判断されるのは困るんだが。むしろ食べたやつの方が怪しくないか? 普通の人間だったら、まず自分の生存を考えるだろうに。誰々を信じるとか信じないとか。所詮、人間なんて最後は自分のことしか考えないっつーのに。そういう所が胡散臭いんだよ、シャディも、お前も」

「そんなことない!」

先ほどよりもずっと厳しい口調のクレトンとミラが睨み合う。

「まぁ、落ち着け。ワシだってミラ君の食事を食べた。それならワシも怪しむべきだろう? 今は一旦、冷静になろう」

「ブレンドンさんの言う通りです。今は落ち着きましょう」

ブレンドンの後に続き、ハリムも口を開く。

「俺も個人的にシャディのことは信じています。ブレンドンさんも同じだと思います。リーナはどうだ?」

「うーん、あたしは自分のことで精一杯でわかんなけどぉ、ハリムと一緒のとこに投票するよ」

ミラの抵抗のおかげで大きく流れが変わった。ブレンドンもハリムも僕を信じてくれている。

シャディ追放賛成派は、マイア、クレトン、フセイン。

反対派はミラ、ブレンドン、ハリム、一応リーナ。中立を保っているのはガレン。

そして未だ寡黙気味のアンジョー。

「ガレンさんは僕のことどう思いますか?」

僕はどちらの陣営にも耳を傾け、静観していたガレンに意見を尋ねる。

「わたしはそうですね。シャディさんの可能性はちょうど五十パーセントぐらいですかね。ただどっちに宇宙人がいるかと言うと、シャディ追放を推している方にいると思うね。シャディさんの今朝の推理はとても理にかなっていましたし、宇宙人側からしたらシャディさんは危険人物ですから」

ガレンの意見は両陣営を納得させるものだった。

「それよりもわたしは、先ほどからずっと何も話さないアンジョーさんの方が気になりますね」

寡黙気味のアンジョーはここにいる誰もが気になっていた存在だ。ガレンがその名前を出し、

アンジョーへの疑惑を浮上させる。

「僕も先ほどからあまり話さないアンジョーさんが気になっていました。僕を追放するのに、賛成でもなく、反対でもない。大きなリアクションをアンジョーさんは発していない。皆さんはどう思いますか?」

僕の欲していたセリフをガレンは簡単に吐いてくれた。中立派のガレンが最も怪しむのは、未だに主だった意見を出さないアンジョーなのはわかっていた。

僕は最低だ。

自分が生きるためなら、簡単にプライドを捨てられる。クレトンの言う通りじゃないか。

流れを作ることが出来た。

僕を安易に追放できないと知った宇宙人側も生存意欲の強い村側も次にヘイトを向けるのは、今まで寡黙だったアンジョーだ。

今の僕に罪悪感も、この行動に対する嫌悪感もない。

ただ今は、僕が生き残ってさえいれば――それでいい。

 

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