【016】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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016―ハジマリ

「とりあえず、朝食を食べないか? お腹が空いてはまともに動けんだろう?」

ブレンドンがリーダーらしく、この場をなだめようと声を張る。

「ミラ君、朝食はできているな?」作り笑顔に身を纏い、些細な言葉で少しでも雰囲気を清かな方向へ流そうとする。

「は、はい。一応、出来てますけど……」

しかしミラには食欲がないのだろう。
そうなるのも無理はない。

誰だって自分の育て親が消えたと知ったら、食欲ぐらいなくなってしまう。

そうして暗く、冷えついた空気の中、食堂に集まった皆は、静かに各々の席に着く。

時間を掛けて、ミラが皆の前に朝食を運び終わる。

その間、皆は終始無言だった。

昨日と同じく、ベーコンと卵の香ばしい香りが鼻を通って、脳にその味を焼き付かせる。

それでも少しばかり悲しい匂いがした。

「さぁ、みんなたべようか」

ブレンドンが出来上がった朝食を前に、食事の催促をかけるが、皆一向に手を動かそうとしない。

「どうしたみんな、食べんのか――」

しかしブレンドンの言葉を遮るように、クレトンが荒々しい音を立てながら椅子を引き、立ち上がる。

「やっぱいらねえわ。二人の悪魔ってのは、俺らを虎視眈々と狙ってんだろ? この食事に毒でも入ってたらどうすんだ?」

クレトンは射るような強く刺々しい眼光でミラを睨みつけ、食堂を去って行った。

再び静まり返る食堂。

また少しの間、沈黙が続くと、

「クレトンさんの言う通りですな。僕も止めます」

そう言ってまた一人食堂に出てったのは、フセインだ。

こうなってしまうと、もう誰も止めようとはしない。もはやこの場はそういう空気で支配されてしまった。後は連鎖が起きるだけだ。

「なら私もパスするわ」

マイアが席を立ち、

「あたし達もパスするねー。行こ、ハリム」

「ああ、うん。そうだね」

リーナとハリムが席を立つ。残ったのは、僕とブレンドンとガレンとアンジョーとミラだけだ。

僕は悩む。

自己保身に走るなら、すぐさま皆と同じようにこの食堂を出るだろう。

僕は俯いた顔を上げる。

ミラは悲しみに暮れた表情を浮かべていた。
育て親がいなくなって、それでも皆のために朝食を作ってくれた彼女。

「…………」

他人を信用するのが苦手だ。打算的に、感情に流されまいと行動してきた。

理屈では説明できない感情が僕の心を動かす。

僕は何を悩んでいるんだ。

彼女の悲しみと何を天秤に掛けているんだ。

やっぱり僕は弱い人間だ。

それでも彼女のあんな顔を見てしまったら、僕は行動せずにはいられなかった。

「いただきます!」

口にベーコンと卵を一気に口に流し込む。

香ばしく広がるベーコンの肉汁に、若干の塩辛さ、それを包み込むようにまろやかな甘さを滲ませるスクランブルエッグが渾然一体の旨味を成す。

美味かった。

「彼らはたべないんですね。私は食べますよ」

ガレンもそんなお気楽な声と共に、手にフォークを持つ。

「…………」

アンジョーも小さく祈りを捧げている。彼は敬虔なクリスチャンだ。食事への感謝は決して忘れない。

「そうだな、今日の朝食は食べ放題だ」

ブレンドンも軽い冗談を垂れながら、朝食を食べ始める。

「みなさん……」

ミラも静かに有り合わせのパンを手に持ち、ゆっくりと咀嚼する。

彼女の頬に一粒涙が垂れた。

僕はそれを必死に見ないようにし、喉が詰まるのも気にせず、朝食を食べ続けた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ミラからタッパーを貰い、食堂から誰も居なくなった後、作り残しをタッパーに詰め、屋敷を出る。

今や屋敷にいる僕らの信頼関係はほとんど崩れ去ったと言ってもいい。リーナとハリムを除いて、皆が互いを疑い、自己の保身に命を懸けている。
この疑心暗鬼の状態は何時まで続くのだろうか。

僕は昨日と同様に、マドハンの許へ向かう。誰にも見つからぬように用心しながら、家屋の寝室までやって来た。

「おーい、マドハン?」

寝室にマドハンの姿が見えず、声を出す。すると、同室のクローゼットから声が聞こえた。

「……にーちゃん?」

どうやらマドハンは隠れていたようだ。ステラの捜索の際に、この家にも人がやって来たのだろうと容易に推測できる。

「シャディだ。出てきて良いぞ」

クローゼットの開き戸が開き、マドハンが現れる。

「とりあえず今日の分だ。もう一個のタッパーは回収するよ」

僕は先ほど用意したタッパーを渡す。

「サンキューな。ところでさっき人がこの家までやって来たんだけど、外はどうなってるんだ?」

僕は昨日、今日で発見したこと、ステラの失踪の件を話す。屋敷があの状態では、僕もマドハンぐらいしかまともに信用することは無いのだろう。

信じたいという気持ちを簡単に疑心が上回ってしまう。

だから信じ切れるのは純粋と熱意を宿した目の前の少年だけなのだろう。

「なるほど。少なくとも夜中の二時ぐらいまでは、橋に誰も行ってなかったよ。夜は足音でも響いちゃうからね」

マドハンの情報からわかるのは、この村にいる全員が吊り橋を切ることが出来るということぐらいだろう。

ステラの書置きが事実なら、僕たちの中に二人、人の心を持たない悪魔が潜んでいる。

誰なのかは、皆目見当もつかない。

どんな人間にも二面性があると僕は知っている。それは僕とて同じだ。

ステラの書置きでまだ一つ気になることもある。

明日消されるのは私だ、という部分だ。
まるで明日も明後日も人が殺されるという風にしか解釈できない。

だとしたら、どう手を打てばいいのか。

この村から出る唯一の出口を失った。当然この町では携帯情報端末が使えないので、警察に連絡することも出来ない。

「あ、そういえば、面白いもん見つけたぜ。にーちゃん」

マドハンが何かを思い出したのか、突然声を上げた。

「じいちゃんの部屋にあった紙なんだけど、色が剥げてるけど、多分この石の図面みたいなんだ」

僕はマドハンから少し薄汚れたその紙を受け取り、注意深く眺める。

彼の言う通り、色が剥がれ落ち、紙自体にも風化の影響を受けている。肉眼でその全てを理解するのは難しい。

僕は常備しているカメラで手元の紙を映し、拡大して凝視する。

「――読めない」

頬が緩み、口角が上がったのが自分でも理解できた。

一番上にでかでかと書いてある字があるが、読むことが出来ない。色が落ちている、文字が潰れている、そんな次元の話ではない。

僕の脳がこれを文字として認識していない。

――例の言語だ。

「なぁ、これ読めるか」

「ん? これ何語?」

マドハンにも見せてやるが、僕と同様に、いや《《地球人》》なら誰しも読むことが出来ないものだ。

僕は再びカメラに視線を戻す。

読めない文字へと線が引っ張ってあり、注釈のように何か手書きで文字が追加されている。

「しあわせの石、製法……」

僕でも読める。これは英語だ。

「聞いたことあるか?」

「そういや、じーちゃん、この石のことそう呼んでたっけか」

マドハンの持つエメラルド色の石は、どうやら『しあわせの石』と呼ばれていた。安直な名前だが、この言語をそのまま直訳したらそうなるのだろう。

引き続きカメラから情報を見つけようと目を凝らす。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

この製法図から手に入れることが出来た情報は、マドハンの持つ石がしあわせの石と呼ばれていたこと。

屋敷の裏にある荒山から採れるウラン鉱石を原料にしていること。

地球人では知りえないような謎の技術が存在していること。

この村の住人がしあわせの石を用いて、かつてないほどの財を手に入れていたこと。

また点と点が一つに繋がった。これは大収穫だ。

「よくやった、マドハン。引き続き調査を頼む」

「おう、わかったぜ。シャディ!」

いつにないテンションで僕らは舞い上がる。

「これは、君の手柄だ。喜ぶといい」

「ははー! お褒め頂き光栄にございます」

屋敷の中はあれほどの緊迫感なのだが、僕らはこれで良いのだろうか。

いやこれほどの収穫なのだ、多少舞い上がってしまっても問題ないはずだ。

高笑いをしているマドハンを見て、僕は忍び笑いをする。

今まさしく僕らは平和な時を送っている。
そう形容しようと何の問題もないだろう。

だから着々と近づいていた『終わり』に僕は気付かないでいたようだ。

――突如外で巨大な爆発音が聞こえた。

「っうわ!」

鳴り響く爆発音は五臓六腑の奥を揺さぶるように低く重く伝わる。

突然の大音量に腰を抜かすマドハン。それは僕の方も例外でなく、心臓の動悸は速く重い。

「いいかマドハン。ここで大人しく待つことはできるね?」

真剣な表情でマドハンに問いかける。この村の皆はまだマドハンの存在をしらない。

マドハンの存在を知らせていけない。

なぜだかその考えが頭を反復する。僕の直感がそう囁いている。

もしかしたら、これがしあわせの石の効果なのだろうか。とにかく、

「僕以外の誰かがここに来ても絶対反応するなよ」

「わかってるよ」

「じゃあ、僕は行ってくる」

僕は家屋の外へ勢いよく飛び出す。

広場には人が既に集まっていた。家屋の裏口から出て、屋敷から来たような振りをする。

「何があったんですか? ブレンドンさん」

ブレンドンは静かに腕を上げ、ある一点を指さす。

「――――」

広場の中央には黒い外套を全身に覆う謎の人物。

顔は見えない。

その外套の周りの地面は焦げ付いており、その人物と同様、真っ黒だ。その黒点を中心に、炎が盛り、謎の紋様が浮かんでいる。

僕がマドハンのいる家屋に行くまでこんな巨大な紋様はなかった。

マドハンと会話していたのは、せいぜい十五分。

あり得ない。

黒い外套の人物は、突如両腕を広げ、僕たちに向かってこう叫んだ。

「君たちにはあるゲームをしてもらう!」

その人物のどこか濁った重低音の声が広場に響いた。

 

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