【013】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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013―ハッケン

ミラの誤解が解けぬまま、解けさせないまま、朝食の余りを詰めたタッパーを手にキッチンを去る。時間が経ち、温度が少し冷めてしまったが問題ない。

食べるのは僕じゃないし。

二階の探索を始める前に、僕は屋敷の外へ出る。
目指すのは小さな工房付きの家屋、詰まるところ、マドハンの許だ。彼もポンコツなりにも僕の調査を手伝ってくれている。ならば、ここは先輩らしく差し入れの一つや二つはすべきだろう。

念のため、周囲の警戒は怠らない。
マドハンはこの村にいないことになっている以上、騒ぎを起こしたくない。当然本人もそれを望んでいない。

ゆっくりと周囲に誰もいないことを確認しながら、家屋へとゆっくり歩を進める。

そして問題なく家屋に入ることが出来たが、一階部分からは物音は聞こえない。僕はそのまま二階へと向かう。

リアナ村の人口消失と何らかの関係はあるだろう緑色の石のことも気になるので、この家屋も追々、探索すべきだろうが、マドハンに任せてしまっても構わないだろう。

そして寝室の前にやって来たが……早朝と同様に、僅かだが布の擦れる音が聞こえた。
察した僕はゆっくりと寝室の扉を開け、中で熟睡しているマドハンの頬を軽く平手打ちする。

「……んん。あとさんじゅっぷん……」

呆れというべきか、哀れというべきか。いや、両方だろう。呆れを通り越すことなく、それでいて哀れだ。

「おい、何時まで寝ているんだ」

中々、起きる様子もないので声を出して起こす。

「うわ! なんだにーちゃんか、びっくりさせないでよ」

何度もこの下りをするのは面倒だ。次からは、水でもかけてあげるのが得策だろう。

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朝食の余りを詰めたタッパーをマドハンに渡し、寝室を後にする。

「サンキューな、にーちゃん!」

後ろから、少年らしく年相応の溌剌とした声が聞こえる。

本人曰く、普段はもっと早起きだが、日が昇らない時間に起こされたせいで、二度寝してしまったらしい。早朝に無理やり起こしてしまった僕も悪いが、まぁ、次からはしっかり働いてもらおうか。

この村は電波が悪く、携帯情報端末の類は満足に利用できない。マドハンとの連絡が取れない以上、こうして直接会わなければならないのは面倒だ。明日も同じ時間帯に来ると約束し、僕は屋敷へ戻った。

次は二階部分の探索だが、二階はほぼ全てプライベートゾーンだ。
屋敷の間取図によると、二階部分にある部屋は全て空き部屋。
この屋敷の使用人を泊めたり、ゲストルームとして利用されるものだろう。NASA職員も含めて、僕らはこの部屋に泊まっている。
NASAの面々は元々、大型のRV車、キャンピングカーでこの村に来ていたので、寝泊まりの場に困らないはずだが、気分屋のガレンの駄々で屋敷に泊まることになった。

そういう訳で、二階はプライベートゾーンが多く、そしてそれ故にステラやミラの手によって既に掃除でもされているのだろう。

望み薄、探索は後回しでも問題ないはずだ。

ちなみに、屋敷の部屋ほぼ全てに鍵穴がある。一階部分はどの部屋にも鍵はかけられていなかった。
しかし二階の部屋には鍵自体がないらしく、どの部屋も鍵をかけることはできない。

間取図を読み取り、再び思案に耽る。

三階はどうだろうか。僕は、足早に三階へ向かう階段へ向かった。

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三階部分にある部屋は計五つ。間取図を見ると四つの部屋にベッドルームと書かれている。
察するに、一番大きいのが屋敷主の部屋。それに順じて、同じ大きさの部屋が三つ。
僕はカメラを取り出し、先ほどパーラーで収めた集合写真を見返す。

家族構成は夫婦二人に息子が一人。

となると、夫人と息子一人の部屋がこの三つの内の二つでいいだろう。
残る一つのベッドルームがあるが、誰のだろうか。

三階はこの屋敷主の家族のための空間だ。使用人にしては格が高すぎるように思うが、恐らく増えるかもしれない家族のための部屋なのだろう。

そして最後の一つは仕事部屋。屋敷主の公務を行う部屋だ。まずは、仕事部屋を見て回ろう。

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落ち着いたアンティーク調の壁面に掛けられた肖像画。この部屋に入って、まず一番に目に飛び込んできた。
客間で見た肖像画、あちらは写真が使われていたのに対し、こちらは油絵だ。
相当腕の立つ絵師に描いて貰ったのが素人目でもはっきりとわかる。

写真で見た時より、更に威厳、というよりふてぶてしさが感じられる。

その肖像画の下には、大きなワークデスクがあり、デスクライトも、その隣に立つ馬のオブジェも、この屋敷主の性格を表していると言っていいかもしれない。

強欲で、横柄で、傲岸不遜。僕が屋敷で見たここの主の性格だ。

机の上や、壁際に配置してあるチェストの上にも書類が多く積まれている。全て目を通すのは面倒だが、やってみる価値は大いにありそうだ。

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バート。それがこの屋敷主の名前。事前にわかっていたことだが、この村はかつてウラン鉱山で収益を得ていた。

この部屋には様々な書類があった。

リアナ村の正体不明の存在について、まだその真髄ははっきりしないが、それでもこの部屋からは多くのことを知ることが出来た。

この部屋にあった最新の記録が1933年の5月22日。

今から七十年ほど前のものだ。これ以降の記録はない。

既に倒産したが、時代の最先端にいた巨大企業との契約書。
契約内容はウラン鉱山の譲渡。

莫大な譲渡価格がそこには書いてあったが、ここまでは普通、と言ったら語弊が生まれるかもしれないが、まだ常識の範囲内ではあった。

1935年まで過去十年間の収益グラフがあった。

一般的に、ウランが元素として発見されたのは1900年頃だ。
しかしそれが実際に兵器やエネルギーとしての活路が見いだされるのは、1932年の中性子の発見から。

この年までは何の有用性もなかったはずだ。

そんな知識を持ってこの収益グラフを見てしまうと、嫌でもその違和感に気付いてしまう。

1929年を境に――爆発的に利益が上がっている。

――一体、誰とこんな取引をしているんだ?

まだ有用として知られていないこの鉱石に国や企業がお金を出すはずがないのだ。

次に僕は1929年の記録を探した。

そして見つけたのは一枚の契約書。

ウラン鉱石の取引に関する内容だ。
ウラン鉱石の定期的な交易、鉱山の取り扱い、技術援助。バートという鉱山の持ち主兼村長のサインに、この契約を持ち出した相手のサイン。

――そのサインは見たことのない言語で書かれていた。

僕の知らない言語。英語でも、スペイン語でも、ヒンドゥー語でも、アラビア語でも、中国語でも、日本語でもない。

僕の知らない言語。僕の知らないセカイ。

――未知だった。

 

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