【012】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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012―タンサク

豪華絢爛な玄関ホールがまずこの屋敷に訪れた者を歓迎する。
エントランスは屋敷の顔であり、屋敷主の性質を表すものだ。

華美に装飾されたこのエントランスに僕は今立っている。

何度見てもこのエントランスの壮大で、煌びやかな装飾には目を奪われてしまうものがある。目の前には、先ほど僕も通ってきた、フィクションでしかお目にかかれないような大きな階段がある。

一階部分に設けられた部屋は計六つ。僕がこの中で既に入った部屋は二つ。書斎と食堂だけだ。後の部屋には何があるのかもわからない。食堂と書斎の探索は後にして、残った部屋の探索を始めるとするとしよう。

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玄関から右方にまず見えるのがこの部屋。
内部は単純で、中央の長方形のテーブルを窓側とドア側でソファが囲んでいる。

これは応接間だろう。

テーブルはマボガニー製。ソファは猫脚で、鋲が打たれたクラシカルなソファ。素人目でも、高級品とわかるエレガントさだ。そしておもてなしをするはずの屋敷主の肖像画が上座側の壁に飾られている。

屋敷主の性格は相当、難があるに違いない。良く言えば、野心が溢れている。悪く言えば、強欲で、エゴ丸出しだ。

洞察を加えながら、次は細かいところも探していく。壁際にはいくつかチェストもあるので、屋敷主には申し訳ないが、調査という名目で来ている以上開けざるを得ない。
RPGなら何かしら重要アイテムが入っても良さそうな感じだが、それ以上に知らない人の家の引き出しを開けるのは少しわくわくするものだ。

次々と中身を確認していくが、引き出しの大半は中に書類が詰まっている。
目ぼしいものはなさそうだと若干諦めかけていたが、その中で、この屋敷の間取図を見つけた。
おそらくこの屋敷を建築する際に用いたものだろう。
屋敷は迷路のように入り組んだものではないので、この間取図は使い時を選びそうだが、どの部屋がどこにあるかわからない今は意外と役に立ちそうだ。

何よりマップはRPGじゃ重要アイテムだ。

僕は間取図の皺を丁寧に引き伸ばし、カメラを使って写真を撮る。もうこの部屋に目ぼしいものはなさそうなので、次の部屋に行こう。

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間取図の一階部分を見てみる。長方形の枠にそれぞれの部屋が模られている。

玄関の左方にあるこの部屋に割り当てられたのはパーラー。

家族団欒を楽しむリビングや、親しい者同士、特に女性が集まるための談話室を目的として設けられた部屋だ。先ほどの応接間よりかは少しばかり大きく、壁紙は派手な花柄で統一されている。

ビンテージ感溢れる装飾棚には、いかにも高級そうな銀食器やアフタヌーンで使われるようなティーセットが並んでいる。

例えるのなら、貴婦人の優雅な午後、と言った感じか。

この部屋で見つけたものはこの屋敷主の集合写真。

装飾棚に飾られていた写真立てにあったものだ。
モノクローム調の写真には大きな屋敷をバックにして、人がわかりやすく並んでいる。

真ん中後方に自分が主役だと言わんばかりの男。応接間で見た肖像画の男が堂々と立っている。

その横には夫人が、前列には一人の子供が大人しく椅子に座っている。

これがただの家族写真ではないのは、横に使用人らしき人たちが綺麗に並んでいるからだ。こちらも何かの手掛かりになるかもしれない。僕は再びカメラを取り出し、写真を撮っておく。

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次の部屋へ向かう。残る部屋は四つだが、食堂とキッチン、書斎、バスルームなので、書斎へ向かうことにする。バスルームに関しては使う機会も多いので、今日は行かなくとも良いだろう。

昨日は書斎にマイアがいたが、今日もいるのだろうか。

僕は書斎の扉に手をかける。この屋敷の書斎はライブラリーと表現しても差し支えないほど大きく、本の虫の僕としては、羨ましい。
両開きの扉を開けると、本特有のインク臭が漂う。
書斎の中央には、テーブルと椅子があり、それらを覆うようにして様々なジャンルの蔵書や物珍しいアンティークの数々が置かれている。

昨日は余裕を以って探索が出来なかったので、今日はじっくり探したいところだが、この書斎にいるもう一人のビブリオフィリア本の虫にも挨拶しなければならない。

「おはようございます、マイアさん」

本に夢中になって食いついているマイアに、僕はいつものより少し快活に声をかける。

「……おはよう」

マイアの口から出たのは必要最小限のおはようの四文字。コミュニケーションに困っているという感じでもなく、義務的で単調な挨拶だ。

マイアのテーブルの上には積み重なっている本の数々。
おそらく今日もこの書斎で籠城するのだろう。

「僕もこの部屋で調べたいことがあるので、うるさくしてしまったらすいません」

「……そう」

僕はマイアに特に話すべき話題もないので、話を引き延ばさず、断りの文言を口にする。本人もそうだろう。

ところで、人がいる部屋と人がいない部屋では緊張感は全く異なる。人がいる部屋でたてる物音が、人がいない部屋より響いて聞こえてしまうのは、僕の気のせいだろうか。

なるべく迷惑掛けないように探索を続けるとしよう。

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書斎の探索を終えたが、特にこれと言ったものはなかった。
ただ書斎のインテリアや蔵書もそうだが、雰囲気が何より好きだったので、マイアの視線も気にせず、写真をたくさん撮っておいた。
静かな部屋の中で、シャッター音だけが無為に鳴り続けた光景はシュールだったが、この写真は後学のためにはやむを得ない。

残るは食堂とキッチンだけだ。僕はそのままの足取りで食堂へ入る。食堂にある物は、大きなテーブルにそれを囲む椅子ぐらいだ。特に目ぼしい物もなさそうなのでこのままスルーしても大丈夫だろう。食堂とキッチンは扉一枚で繋がっているので、キッチンへと向かう。

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キッチンには様々な料理器具や食器が並んでいる。この屋敷のキッチンは一般家庭で見かけるような陳腐なものではなく、高級レストランの一部を切り取ったような豪華さを持つ大型キッチンだ。
先ほどの集合写真に使用人は数十名いたので、専属のシェフでも雇っていたのだろう。

この部屋にある物は、当たり前だが、どこのキッチンにも置いてある物だけだ。僕の求めるような手掛かりの一切はここにはないのだろう。

だから最後の用事を済ませば、一階部分の探索は終了だ。

「やあ、ミラさん。食器洗うの大変そうだね」

皆が朝食を終え、その後片付けのためにミラがキッチンにいる。ミラがここにいる予想はついていたので、キッチン探索はむしろこっちの方がメインと言える。

「いえいえ、家事は私の趣味ですから、楽しいですよ。それよりどうしたんですか、シャディさん」

家事が趣味とは驚いた。きっと彼女は今後素晴らしい良妻賢母となるのだろう。

「実はさっきの朝食の量じゃ足りなくてね。朝食の残りでいいから、少し恵んでくれない?」

「はい、別に構いませんけど、明日からはシャディさんの分多めに作りましょうか?」

「いやいや、わざわざ多く作らなくていいよ。朝食の余り物でいいよ」

少し首を傾げ、不思議そうな表情をするミラ。

「ああ、できればタッパーか何かに包んでくれるとありがたいんだけど。明日もこうして取りに行くから、用意してくれる?」

「はい、わかりましたけど……」

先ほどよりも怪訝な表情だ。不思議を通り越して、疑問を与えてしまったのだろうか。

朝食の時もそうだったが、不信感を持たれるなら、誤魔化さず、本当のことを言えば良かったと少し後悔をしてしまう。

「シャディさんって……」

ミラの口から言葉が放たれる。

「意外と食いしん坊だったんですね!」

ニパッというオノマトペが様になるくらい眩しい笑顔だ。何だろう、この子が純粋・・・な子で良かった。

平和な日常はまだまだ続きそうだ。

 

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