【010】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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010―イシ

少年の知りたかったもの。
少年の取り出したエメラルド色の石。

かつて祖父の部屋から盗みだしたというその石には不思議な力があった。まだ物心がつかない少年にはその力はわからなかった。

ただ少年が迷子になった時、その石に祈りを捧げれば、導かれるように家に帰れた。少年の友人が虐められていた時、その石に祈りを捧げれば、力がどこからか湧いてくるように感じた。

少年にとってその石は――幸運であり強さだった。

そして今、祖父がこの夏休みになって急逝した。
少年は祖父の故郷と、そこで起きたある事件の存在を知った。少年の祖父はその村の、その事件の、生き残りだ。そしてこの石はその村の技術で作られたものだと知った。

どんな村で、どんな事件なのか。どんな技術があれば、こんなものが作れるのか。

少年の祖父は決して答えなかった。得体のしれない何かを恐れているかのように、その口を開けようとはしなかった。

祖父の死を引きずりながら、未知に引き込まれるように、少年は静かに決心した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ある事件に、エメラルド色の石。
この村の全貌の一部を僕は知ったようだ。ある事件というのは、リアナ村の突然の人口消滅と考えていいだろう。
しかし、具体的な中身がわからない。どんな事件なのか、どんな過程があれば人口消滅という陰惨な結果になるのか。

謎は深まるばかりだ。

僕はマドハンの真剣な眼差しに、目線を合わせる。

「ありがとうマドハン。ただ君だけが話すのは不公平だ。僕もなぜここに来たのか、そして現状を話すよ」

マドハンの熱意に答えるためには、僕も真剣にマドハンと向き合わなければならない。彼がいくら中学生と言っても、彼も自分の未知や真理を追究する一人の科学者なのだから。

僕は文言通り、自分がどうしてここに来たのか、未だ実にならない憶測、村の現状、僕の思いつく限り全てのことを話した。マドハンも真剣に頷き、時々ぽかんとした表情を浮かべることもあったが、僕の話を最後まで聞いてくれた。

「お、おまえはおれの話を信じてくれるんだな」

彼は今まで石のことを誰にも打ち明けられずにいたのだろうか。こんな非現実的な話を誰も取り合ってくれないと。

そんな目の前の少年に僕はかつての自分を重ねていた。

あの日見た光る円盤をみんなと共有したくて、色んなところで色んな人に話した。だけど誰も取り合ってくれなかった。

そんな思いをこの少年も抱いているのだろう。ただそれを言うなら僕も同じだ。宇宙人が僕らを操作しているなんて憶測を普通の人間が取り合ってくれるはずもない。僕はこの少年が嘘、偽りなく真剣に語ってくれるからこそ、その思いに向き合うことができる。

「ああ、信じるよ。僕は心の中に堅い信念や曲げない意志を持っている人が好きだ。君の真っ直ぐな思いに答えたい」

「うん、ありがとう」

僕はこの少年に過去の自分を投影している。僕はかつて真剣に語り合ってくれる仲間が欲しかった。最初は好きなことに没頭していけた。しかし、そんなことが簡単にできるほど学校生活は甘くはなかった。

この少年には孤独を知って欲しくない。

だから僕はこの少年に真剣でなくてはいけない。少年にとって理想でなくてはならない。

「これからはこの石のことも調べてみるよ」

「ありがと」

その後も色んな情報を共有することができた。マドハンの祖父の名前はダン。僕の背面にある部屋に掛けられた名札と同じ名前。つまりこの家は彼の祖父が住んでいた家だった。

「おれはこのままこの家を調べたい。もしかしたらじいちゃんとこの石のことがわかるかもしれない」

「わかった、マドハンはこの家の捜索を続けてくれ」

大体のことは知っただろうか。

窓の外から差し込む陽光。朝をを告げる日の光に、小鳥たちのさえずりに、何処となく今日が始まったのだと実感する。

そろそろ僕も屋敷に戻るか。

「僕も時々、この家に来るようにする。それじゃあ僕はそろそろ帰るよ」

「おう!」

元気溌剌な声が家に響く。
クラブや部活動にも専念してこなかった僕は、学校生活の中で後輩というものを意識したことはほとんどない。
僕に後輩がいたらこんな感じなのだろうかと少しばかり考えてしまう。世にいう可愛い後輩というのはこんな感じなのだろうか。

僕は寝室を出ようとするが、一つ聞いてないことがあったのを思い出した。

「あ、そういえばマドハンはどうして僕をつけていたんだ?」

忘れてはいけないことだった。危ない、危ない。

「えーっと、それは……あはは」

急にしどろもどろになるマドハン。視線は泳いでいる。

「おれはこの村にこんな人がいるとは思わなくて、ずっと廃村だって聞いていたから。それで人に話しかけるのが怖くて、でもお腹すいちゃって。一番おれのこと知っても話さない人に、食糧を分けてもらおうと思って……えーっと、一番ちょろそうだった」

「…………」

「で、でもそういう意味じゃないから! にーちゃんはすごくやさしいから!」

前言撤回。何とも生意気な後輩だ。
僕はそのまま本心から微笑みを浮かべ、寝室を去ろうとした。

「ありがとな、にーちゃん!」

僕はこの村にどんな恐怖があるのか知らない。ただ今はこの一時に、初めてできた後輩に、どことなく幸福を感じるのだった。

 

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