

006―ムラ
リアナ村。NASAによって隠し続けられた『未知』と『神秘』の村。
――僕は遂にこの村にやって来た。
目の前には閑散とした家々がぽつぽつと乱雑と建てられている。都市のような景観法の下で作られたような理路整然としたものではないが、決して雑多という印象は受けず、むしろ古き良き田舎の風景を思い出させるような綺麗な町並みだ。
その配置に黄金比すら感じさせられる。
建物は木材を横に張った壁に、大きな窓。正面には雨風を防ぐポーチがある。
所謂、コロニアル・スタイルだろう。
ただ人の手によって整備されてないために、建物には風化の後が見受けられる。決して住めないということはないだろうが。
そして、この村のシンボルと言っても差し支えないほどの大きな屋敷がある。こちらもコロニアル・スタイルの大きな建築だが、屋敷の壁に這う赤や緑色の蔦が古風な趣を醸し出している。
――不思議な村だ。
この村の建物を最初に見て僕が最も不思議に感じたこと。それは、この村に妙な生活感があることだ。窓越しに見える雑貨類や庭にある工具類が死んだはずの村に生を与えている。
――時間が止まっている?
立ち退きの光景ではない。そうだとしたらこの光景は不自然すぎる。
やはり、噂は本当だったのだろうか。宇宙人によるヒューマンミューティレーションならこの不思議な光景も納得できてしまう。
僕がこの光景に取り憑かれていると、後ろから声をかけられていることに気付いた。
「おい、そこのお前。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
後ろを振り返ると、髪をツンツンに立たせた男が立っていた。年齢は二十台後半。
如何にもと言わんばかりの利己的な印象が見受けられる。
しかし、困ったものだ。この村の管理はおそらくNASAの下で行われている。となると、目の前にいる男はNASAの職員か、もしくは彼らが雇った警備員か何かだろう。さて、どうしようか。
「すいません。ブレンドンという人を探しているのですが」
ブレンドンという名前を出して様子を見てみる。流石に、NASA職員の監視下ならブレンドンも何らかの策を講じているはず。
そうすると、目の前の男はなぜか不機嫌そうな顔をして言葉を発した。
「またブレンドンか。お前もあいつの仲間かなんかか?」
どうやら正解だったらしい。ブレンドンのことを知っているなら、ここに来た理由も知っているはずだ。なら話をしても大丈夫だろう。
「はい。ブレンドンさんと一緒で、ここの調査に来ました」
目の前の男は「はぁ」と露骨にその表情を歪め、大きな嘆息を吐く。
「全く、困るんだよ。勝手なことされるのは。俺の出世に響いたらどうすんだ」
男は自分の出世を気にしている。男の意欲とエゴイスティックな性格が窺える発言だ。
「あはは、すいません……ところでブレンドンさんは今どこへ?」
車が橋の前にあったので、ここにいないということはないはずだ。
「ああ、《《やつら》》ならあそこの屋敷にいるぞ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「中にいるから、後は適当にしてくれ」
そういってこの男クレトンは屋敷とは別方向へ去っていく。
ここに来る途中、軽い自己紹介をした。
男の名前はクレトン。やはり、彼はNASAの職員だった。元上司、つまりブレンドンの旧友の口利きで、無理やり調査を許可させ、ここに来ている。あの口振りだと、NASAにはこの調査のことは話していないのだろう。
一応、彼もこっち側の人間らしい。
そうしてやって来たこの屋敷。遠くで見えた古風さだが、近くで見るとその古風さと屋敷の大きさも相まって、より荘厳で、壮大に見える。
僕は屋敷のドアに手をかけ、ゆっくりとそのドアを開けた。
前回
次回