【001】汝は宇宙人なりや?【ホラー・ミステリー】【オリジナル小説】
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001―ニチジョウ

ランチタイムを終えた、昼下がり。

ビュッフェスタイルの昼食の満足感からか、講義中にも関わらず瞼が重い。クーラーによって冷やされた部屋に、窓から降り注ぐ盛夏の暖かな陽射しも相まって、講義の内容も教授の駄弁も頭に入ってこない。

そうした眠気の心地よさが、僕を思案に耽けさせる。

国の中西部に位置するこの大学に入ってもう一年ほど経ち、お祭り騒ぎだった世紀末の熱は既に冷め始めていた。田舎から都会へ出て、驚愕したこの広大なキャンパスもモダニズムなビル群にも慣れ、ありきたりで、ありふれた、正に普遍的とも呼べる大学生活を僕は送っている。

この大学に入学した一番の理由は、幼い頃から描いていた一つの夢を叶えるため、と言っても大したものではないし、具体的な職業を思い浮かべている訳でもない。

だから正確に言えば、宇宙を知りたい、そんな端的な言葉に尽きるのだろう。

きっかけは幼い頃に見た円盤型の機体。あれが本当のUFOであったかどうかは定かではないし、今の僕でもあれが何なのかはわからない。しかしあの光る空飛ぶ円盤が僕の見た最初の宇宙の神秘だったのは間違いない。

そこから僕は宇宙に心酔した。俗に、素敵思想れんあいのうの言う所の、一目惚れを僕はした。

親に泣きついて天体の図鑑を買ってもらった。

普段僕の住んでいた大きな町が地球のほんの一部であることを知った。

そんな大きな地球も空に浮かぶ太陽と比べたら米粒ほどで、そんな太陽も宇宙全体から見たら砂漠の一砂に過ぎない。

――宇宙は厖大で、甚大、それでいて神秘的。果てのない深淵を僕は覗いているようだった。

ジリリジリリと講義の終わりを告げる耳障りなチャイムが鳴る。
重い瞼を擦り、思い出に耽っていた頭を上げ、小さな欠伸を漏らす。
宇宙物理学の講義は非常に楽しい。楽しいがしかし、睡魔には勝てなかった。今日の講義内容は太陽系外惑星についての基礎。予習は適度にしてきたものの見逃しがあってはいけない。
そう思い、急ぎ早に教壇に立つ教授の許へ駆けた。

「ジェイコブ先生、今日の講義について質問があるのですが」

教壇へやって来たのがいつもの・・・・生徒であることに気付いたジェイコブが砕けた口調でその生徒、僕に告げる。

「また君か、シャディ。君の居眠りは一体いつになったら直るんだ」

その表情に怒りはなく、長年の友人に会ったような柔らかな表情だ。僕は度重なる居眠りと講義後の談笑で、講師であるジェイコブと確かな信頼を築いていた。

「君が優秀な生徒であるのは間違いないんだがね、いい加減その居眠りは直してくれよ」

「あはは……すいません。ところで、先生――」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

いつものように下らない会話や講義内容を踏まえた小粋な宇宙トークをしていると、半刻ほど経過していることに気が付いた。

ジェイコブとの会話はいつも弾む。

彼は僕の知らないことを多く知っている。僕が未熟であることを確認するたびに、僕はまた、宇宙が厖大で、神秘的であると知ることができる。

「そろそろ、終わりにしようか、シャディ」

僕はジェイコブとの会話の終了に物寂しさを覚えた。来週からサマークォーターが始まり、新学期や新入生のための準備で、ジェイコブと夏に会える時間はないかもしれない。しかし彼の貴重な時間を奪ってはいけない。そう思い僕は自分の欲求を制止し、愛想よく答えた。

「そうですね。次、会えるのは九月頃でしょうか?」

「そうだな、夏は会えないかもしれない。長期休暇ぐらい家族旅行もしないといけないしね」

ジェイコブの所帯持ちらしい発言。
やはり、そういう年齢になって来ると自分のことよりも家族のことを考えなければいけないのか。

――夏休み。

大学に入って初めての長期休暇だ。僕はサークル活動もクラブ活動もしていない。これといった友人も、ましてや彼女なんかもいない。

だからこそ夏休みは自分のためだけに、自由に使える時間だ。いや本来夏休みとはそうあって然るべきものなのであろう。

大学の講義も面白いが、やはり自由に使える時間ともあって、夏の過ごし方は慎重でなくてはならない。

――決して思い出という形で風化させてしまうような無駄があってはいけない。

僕の飽くなき知識欲を効率よく満たすための夏にしよう。

「それでは先生、新学期にまた会いましょう」

僕は先生に向けて、軽く一礼し、教壇を後にする。貴重な夏を過ごすための思案を巡らせながら、ゆっくりと上機嫌に歩を進める。僕が部屋のドアに手をかけたその時、後ろからジェイコブの「あっ」という明け透けな声が聞こえた。

何か思い出したのだろうか。

「そうそう、シャディ。時に君は――宇宙人を信じるかい?」

ジェイコブの意気揚々とした声に、柔らかな表情。

突然出て来た宇宙人という言葉に僕の好奇心がアンテナを立てた。

 

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