【エピローグ】少女×秘密=愛?【R18】【オリジナル小説】

エピローグ――物語に終わりはない

「なぁ、立宮。お前、本当に何も知らないのか?」

 今日は特別、気持ちの良い朝だった。天気は雲一つない快晴、心地良い涼やかな風も吹き、何かと気分が良い。勿論、それだけではない。今日は待ちに待った終業式、つまるところ夏休み前日というわけだ。

「無論、知らないが」

 短髪の友人・竹口が何度も同じような質問をしてくる。流石に無視し続けることはできず、仕方なく答えてやる。

 朝からある噂で教室は持ち切りだった。

 曰く、奈月彩華はパッドだの。

 曰く、いやあれはさらしだの。

 兎に角、彼女に関する噂で耳にたこができるほどだ。状況としてはパッド説が圧倒的に劣勢。夏の国体に向け、邪魔な胸をさらしで抑えて練習に熱中している説が優勢だ。

 しかしそんなことはどうだっていい。

 真実はいつも一つ。そしてその真実を知る者もまた一人で良い。

 それを誰かに打ち明けるか否かは、彼女次第というわけだ。

「いやぁ、でもなぁ。他のクラスの奴は知らないだろうが、先々週だっけ? お前のこと屋上に呼び出してたじゃん奈月。このクラスのほとんどはお前が何かしたんじゃないかって疑ってるんだよなぁ。そりゃあの日から奈月は一週間も休んだんだから、邪推したくもなるぜ」

「彼女は親切な女性だよ。私は彼女の忘れ物を預かっていた。屋上での一件はその単なるお礼だ。欠席したのも偶然だろう」

「イマイチ、腑に落ちねえよな」そう言って、頭を竹口は抱え出す。

 しかし彼女の決断も早かった。まさか小さな変化で良いと言ったはずだが、いきなりコンプレックスを晒すようになるとは。流石は全国でも有数の名家のご令嬢。侮れない。

 ただ……。

「うわ。どうしたんだよ急に笑い出して。気持ちわりいなぁ」

「いや何でもない。少し……侮れないと思っただけだ」

 頭を傾げ、クエスチョンマークを浮かべる竹口。しかしその疑問はクラス委員長の声と共にかき消える。

「ああ、もう時間か。立宮、さっさと体育館行こうぜ」

 廊下には終業式に向かう人だかり。混乱になる前にいち早く行かねばならない。

 竹口と共に教室を出て、たわいの無い談笑を交わしながら、体育館へと向かう。

 しかしその途中、

「――すまない。怪我はないかね、レディー」

 階段と廊下の合流地点で一人の少女と肩をぶつけてしまう。

「ええ、大丈夫」

 あの時と同じ文言で彼女は柔らかな微笑みを浮かべる。そこに明確な違いがあるとすれば、きっと平らになった小さな胸と、朱く染まった白無垢の頬だろうか。

 特別な言葉は交わさない。二人は何事もない他人を装って、同じ道を別々に歩いて行く。今はそれだけの距離感で十分だ。

「なぁ。やっぱおかしいよな」考え事をしていると、不意に肩を揺らす友人の声が聞こえた。

「何かおかしかったかね?」

「いや。奈月のことだよ。何かなぁ、違和感があると思ってたんだけどよ。雰囲気が妙なんだよ」

 竹口は顎に手を付き黙考する。「ほら、俺って自他共に認める処女厨じゃねえか」再び口を開き、そんなことを言う。

 豊満信仰と処女信仰。何かと性に対する注文が多い二人が出会うのは必然だった。そんな過去を思い出す。

「なんつーか。垢抜けたって言うか。前から大人びてはいたんだけどよ……」

 信仰を誓い、その道をたった独りで歩むスペシャリスト。彼の審美眼はやはり注意せねばならない。彼女との出会いは二人だけの秘密。決して他人に明かしてはならない一場の夢だ。

「お前はどうなんだ? 豊満の専門家から見て今の彼女はどう見える?」

「今の彼女はわからないが……少なくとも昔の彼女に違和感はあったね」

「どういうことだ?」

「豊満とは重力に他ならない。それと同時に繊細なものだ。だからこそ豊満は下へ下へと垂れ下がり、同時にそれを支える肩や腰に痛みを与えてしまう。それが症状になると、例えば猫背であったり、あるいは肩凝りであったり、つまりは豊満特有の悩みを持つようになるわけだ」

 「ほうほう。それでそれで?」一呼吸の間を置くと、竹口は間髪を入れず、大きな相槌を打ってくる。どうやらこの話に興味津々らしい。

「ただ彼女は姿勢が良すぎた。肩にも、腰にも、背すじにも負担を強いている様子はなかった。余りにも気高すぎたのだよ」

「なるほどな。それが奈月に興味がなかった理由か。初めから疑ってたんだな」

 実を言うとたったそれだけのこと。特別な事情があるに違いないと類推してはいたものの、ここまで大事に発展するとは思っていなかった。

 それが彼女にとって幸運になるのか、不幸になるのかはこれから次第。

「……しかし、勘違いということも当然あるだろう。今の彼女が豊満なのか、否か。それは結局、些末なことに過ぎない。私は豊満を信仰している身だが、それでも豊満とは母体の美しさを助長するアクセントでしかないと思っている」

「は? どういう意味だよ?」

「彼女の胸に付いているソレが豊満であろうと、貧乳であろうと、私には関係ないということだ」

 やはり侮れないのはあの貧乳だ。どうしてか彼女と肌を重ねてから、心がざわついて仕方が無い。しかし紳士である以上、美しいものは美しいと素直に認めねばならない。

 それは変わらなく美しいもの。

 彼女が貧乳だろうと、やはり彼女は美しいのだ。

「何だかお前らしくねえな。あいつも、お前も、何か変わったのか?」

「馬鹿なことを。人は成長する生き物だ。一日として同じ人間はいないのだよ」

 自分はまだ彼女の心の闇をほんの一部しか知らない。それでも独りで抱え込む必要はないと言った以上、必要な時には彼女の手助けをせねばならない。

 これから彼女がどのように成長していくか、それを共に歩みながら、見守っていく生活も悪くはなさそうだ。

 

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