【第二話】少女×秘密=愛?【R18】【オリジナル小説】

第二話――クイーン・オブ・ハート

 奈月彩華は〝超〟がつくほど完璧超人で、〝超〟がつくほど美人であり、〝超〟がつくほどの巨乳である。一たび彼女が廊下を歩けば、それはそれは大きな旋風が巻き起こる。

 今日も平穏に一日が過ぎ去り、帰りの準備を終えた奈月は下駄箱へと向かっていた。

 大名行列か、あるいは海を割って渡ったモーセか、奈月の歩調に合わせ生徒たちが道を作る様子は圧巻そのものなのだが、もはや恒例となっており誰も驚きはしない。

「彩華様、荷物をお運び致しましょう」

 奈月の傍を横並びで歩き、そう口にするイケメンとも形容すべき男子生徒。しかし、彼は奈月の後ろをついていた女子生徒に、突然腕を引っ張られ、連行される。

「何を言ってるんだ新人、」小声ではあるが、女子生徒の怒声は奈月の耳元まで届いた。

「NTM会会則、第四項を述べてみよ」

 NTM会とは〝奈月彩華様を遠くから見守る会〟の略称である。親衛隊と呼ぶ者も多い。その権力は生徒会を遥かに飛び超え、教育委員会の面々にも隠れ会員がいることから、学園の運営の在り方を一新させてしまうほどのものだと噂されている。

 勿論、噂だから真偽のほどは確かではない。

「は、はい! 〝決して彩華様の横に立ってはいけない〟」

「そうだ。次はNTM会会則、第十七項を述べよ」

「〝彩華様の手荷物に指紋を付けてはならない〟」

 NTM会の腕章を付けた女子生徒は仁王像のような鬼気迫る表情で男子生徒を睨み、腕を組む。

「ああ、お前はそれをわかっていながら、何をしたんだ?」

 そんなおおよそ一般的な女子高校生とは思えない迫力に、男子生徒は気圧されるばかりで、しばらくの間沈黙が続いた。

「ぼ、僕は彩華様の傍を歩き、あろうことか手荷物を預かろうとしていました! す、すいません! 彩華様を前にして、り、理性が吹っ飛んでしまいました。さ、彩華様があまりにも美しすぎるから……」

 「バカやろう!」女子生徒は男子生徒の頭を強く引っ叩く。

「新人のくせに、自らの失敗を彩華様のせいにするとは何事だ! お前は今日から一週間、彩華様を視界に入れることを禁じる。わかったか?」

「はいすいません……」

 無論、そんなことは奈月の知ったことではなく、端的に迷惑極まりないものなのだが、あまりに大きくなり過ぎたその組織にただただ当人の奈月でさえもしり込みするばかりであった。

「みなさん。今日はもう帰っていいですよ?」

 下駄箱にまで辿り着いた奈月は彼女の後ろに付き従うNTM会の面々に、超高校級の笑顔を振りまきながら一言。そこまでしてようやくNTM会の呪縛から奈月は解き放たれるのだった。

 そうでなければきっとNTM会はどこまでも付いて来てしまうのだろう。

「は! 気を付けてお帰り下さい! 失礼します!」

「はい。さようなら」

 NTM会の面々は散り散りになってばらけていく。ある者はそのまま帰路へ、ある者は部活動へ。

 ちなみにNTM会会則、第六項で許可なく奈月をストーキングすることは禁じられているようで、見つかり次第厳しい罰が与えられる。奈月を愛でる以前に、規律を第一に考えるのがNTM会の鉄則だ。

(はぁ、ほんとに疲れた……)

 中世の姫様を思わせる表面の口調も心の中では一般的な女子高校生。奈月は下駄箱の取っ手に手を掛け、瀑布よろしく流れ込むラブレターの滝を慣れた様子で、手提げ鞄に詰め込んだ。

 重くなった手提げ鞄を一度肩にかけ直し、靴を取り出そうとかかと部分を掴もうとするが、

(忘れ物……)

 どうやら奈月は数学の課題を忘れていたらしい。掴みかかった手を戻し、奈月は踵を返す。校内のどこかに残ったNTM会の一員を使って、取りに行かせることもできるだろうが、彼、彼女らを馬車馬のように働かせないと言うのが奈月の信条だ。

 仕方ないから自分で行くしかないと、手紙の詰まった手提げ鞄も相まって重くなった歩調をやや引き吊り気味に前へと押し出すのだった。

           § § § § § § § § § §

「――すまない。怪我はないかね、レディー」

「ええ、大丈夫」

 放課後。立宮篤人は未だ見ぬ豊満を求め、校内を放浪としていた。その真意は確かではないが、女子生徒の後ろ姿に豊満の気配を感じ、その残響と残り香を頼りに追っていたのだった。

 しかしながら、そのなか、立宮はとある女子生徒と壁越しで死角となっていたからか、衝突してしまったらしい。

 床に吹き飛んだ手提げ鞄。その中からは大量の手紙が足の踏み場もなくばら撒かれた。その女子生徒はその手紙を拾おうと腰を屈めるが、

 「おっと、淑女の手を煩わせるわけにもいかない。私が拾うから、君はそこでお花畑の妄想でもしているといい」と立宮が制止する。

「う、うん。ありがとう」

 立宮は紳士然とした手付きで床に落ちた手紙を一枚一枚束ねていく。これも立宮の言う〝上流階級の賜物〟なのだろうか。基本的に立宮は女性に対しては分け隔てなく温厚であり、親切である。

 〝巨〟か〝貧〟かそんな女性を二分するファクターさえ備えていなければ、それこそ奈月と立場を同じくして、この学園の人気生徒となっていたことだろう。

「ねえ、あなたって……」

 女子生徒はそんな奇人、立宮の姿に覚えがあるらしく、言葉を淀んだ。

「すまない、私は急いでいるのでね――」

 しかしそう言って拾い上げた手紙と共に、手提げ鞄を立宮は女子生徒に渡す。

「それではまた別の機会で。奈月嬢」

 言葉を交わす暇もなく、妙に落ち着いた歩調で立宮は去っていく。

 奈月の認識ではおおよそこの学園に在籍する生徒は二種類に分かれる。〝自分のことが好きな生徒〟か〝自分のことが好きな上にNTM会の会員〟であるかだ。

 故に颯爽と目の前に現れて、颯爽と去っていくその奇人の姿はよっぽど不審に映ったらしい。

(なによ、アイツ)

 立宮の視線は強烈に奈月の脳内に焼き付いた。まるで自分のことなど興味がないとその視線は強く主張し、そればかりかお前の全てを見抜いていると達観するような、丸裸にするような、そんな視線だった。

 当然、悪い気分しかしない。

 それでも、一握の希望が、奈月の心の中を静かに伝染していくのだった。

 

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