

プロローグ――微笑みの天使
眼を開けるとそこには空が広がっていた。
茜色の美しい空だ。
柔風の吹く屋上には一人の男と一人の女。男は金網の前に立ち、ただただ街の景色を眺めている。女の方はと言うと、小さな寝息を立てて気持ちよさそうに眠っていた。
「あれだけ激しいことをしたのだ。眠くなるのも仕方がない」
男は眠り姫に向かって、ぽつりと一言。その言葉は耳朶にも触れず、風にさらわれ、掻き消されてしまう。
「さて。どうするべきかね」
彼女と関わりを持ってしまった以上、この身は必ず責任を負わねばならない。
しかし彼女の隣に立つということは、彼女の心の闇にも触れるということ。
彼女は純粋無垢だ。そんな彼女をこの身は穢してもいいのか。
「私には彼女の隣に立つ資格などないのだろう」
それでもせめて。彼女に大切な人が見つかるように。
私はその一線を踏み越えねばならない。
「…………ぅう。はぁーっ」
どうやら彼女を起こしてしまったようだ。二、三度小さな深呼吸を繰り返し。
屋上に静寂が訪れるのを待った。
「――この街はいつ見ても美しい。そうは思わないかね?」
次回